第987話 秘書
「魔帝国の女王配になりました」
「ああ、それは想定しておりました」
ルークさんがぴっしりと目を細めながらそう答えた。
「えっ、想定してたんですか?」
「まぁ、ソラ様ならそれくらいまでは想定していないといけないかと……いつも想像の一万倍のことが起きるくらいの腹積もりです」
「まぁ、ソラならいつかやらかすと思っていたもの。まったく、政務官がいつも胃痛に悩まされているのはあなた達のせいなのよ?」
なんでそんな犯罪者みたいなこと言われなきゃならないんだ。
「ひどいよ、リリエラお義姉ちゃん……」
「くっ……お姉ちゃんは屈しませんのよ……!」
じゃあ抱き締めて撫でないでよ。
それを屈してるって言うんだよ。
「ああそうだ、あとついでにお国を貰いました」
「はぁ……?」
いや、僕が一番「はぁ?」って言いたいんだよ。
「実はかくかくしかじかで……」
僕はララちゃんとの婚約と治外法権の領地を貰った話を二人にした。
「まったく、あなたは目を離すとすぐ頭を抱えるようなことを持って帰るのだから……」
「私だって持って帰ってきたくて持って帰ったわけじゃ……」
「そう言って、あなたは道端に置き去りにされた犬猫を全部拾い歩くつもり?」
「うぅ……偽善だってことは分かってるけどぉ……!」
「ほら、罪悪感があるというのなら、早くお口をあーんしなさい!」
「いつまで続くの?この姉ロールプレイ……」
「何よ。弟をあやした私の実力を知るいい機会だわ!」
「0歳児と18歳を混合しないでよ。どこに成人過ぎた同い年の弟にあーんする姉がいるの?」
「ここにいるわよ!」
どや顔で恥ずかしいこと言わないでほしい。
「リリエラ、子供扱いは流石に失礼ですよ」
結婚して義姉になったのだから敬語を使うのはやめましょうとリリエラさんとは話していたが、こうやって言い合ってるとにこにこしているんだよな、ルークさん。
「でも今回に関しては私じゃなくて妻たちが勝手に根回しして受け入れたんだけど……」
「本当に嫌ならきちんと言いなさいよ。清濁を併せ呑むのが夫婦というものよ」
そう言われると、線引きの話はきちんとしていなかった僕が悪いのか……。
でも、今回の件はあんまりだよ、勝手に僕の妻を決めるなんて……。
「それにしても、やっぱり変な領地を掴まされたわね……」
「えっ……やっぱりあの女王、反省していなかったっ!?」
治外法権の土地なんてこちらに条件が良すぎておかしいと思ったら、やっぱり問題のある領地を押し付けられたんだ……。
「別に、あなたは何もしなくていいのよ」
「えっ……?」
「領地を押し付けられたのはララ王女の都合よ?だからあなたがララ王女の代わりになんでもやってしまえば、ララ王女はソラと婚約する条件を放棄していることになって、最悪取り下げられてしまうわよ?」
「で、でも!婚約者の私がなにもしないで、もしそこに住む民の皆さんが大変な目に逢われていたら……!」
「そうやって首を突っ込むから、身体が足りなくなるのよ!こうなったら、今後は秘書としてお義姉ちゃんがあなた達夫婦全員のスケジュールを管理してあげるから!」
な、なんか始まった……。
「手始めに、あなた明日から暇でしょう?スケジュールが決まるまで、あなたは絶対に仕事をしないこと!」
ついに僕は仕事禁止令を受け渡されてしまった。




