第985話 万年
試合内容は端末で拡散され、そしてこの宣言も拡散されていた。
勝者の願いは絶対。
それもチャンピオンである涼花さんを倒したのだから、彼女がチャンピオンだし、なんなら魔帝にもなれる。
でも彼女は既に聖女院の所属としてどこの国にも属さない身。
だからこそ魔帝国側への配慮として、涼花さんは魔帝を妻に娶ることで「魔帝陛下の家族が一番強い」と言える状態を作ったのだろう。
「お、終わった……」
僕が妻として認めないなら、妻である涼花さんの妻にしてしまえば事実上僕の妻にもなる理論を通してきたのだ。
「どうしてあんなこと言う前に相談しなかったのっ!?」
「ソラちゃんは反対することが聞かなくても分かったからね」
「勝手に妻が増えていく側の気持ちも少しは考えてよ……」
「それならはじめから回りくどく言わずに『あなたが好きではないので』とはっきりと断れば良かっただろう?」
「う……」
妻たちは僕が9割方まで『いいよ』という言葉が出かかっていることに気付いていた。
もはや僕の考え方や行動の癖のようなものはおろか、心の中まで全部把握されている……。
「アビスさんはそれでいいわけ?」
魔力を使いきったアビスさんがお魚を頬張っている姿、正直一生懸命大きなお口を開けてもぐもぐしているのが小人族みたいで可愛い……。
「ん?僕はソラもエルーも涼花もエリスも、皆大好きだよ?だって皆僕を救ってくれたヒロインなんだから!」
一人ヒロインじゃないんだよぉっ……!
「それともソラは、僕とじゃ……嫌?」
くぅっ、この眩しい笑顔には勝てない……。
こうやって外堀って埋められていくんだ……。
「わ、わかったよぉぉ……」
「やはり、万年ロリコン……」
うるさいよ、そこ。
「それで、この後のご予定は?」
「せっかく海に来たのだから港町や泳いだりしたかったんだけど、ちょっと端末から連絡が来ちゃって……」
「どなたからですか?」
「ルージュちゃんからなんだよ。それになんかソフィア女王から何十件も通知来てるし……」
なんかまた嫌な予感がしてきた。
「ルージュちゃん、来たけど……」
「ソラお姉さま、どうか私を助けてくださ……」
帰り際にシュライヒ公爵家に足を運ぶと、ルージュちゃんが会うなり余裕がなさそうに助けを求めてきた。
「ああ、やっと出会えた……!」
隣の部屋からノックして返事もせずに入ってきたのはララ王女。
僕を見るなり、翡翠色の綺麗な目が真ん丸な宝石のように輝いた。
「え……ララちゃん?どうしてここに……」
「私の、運命の御方……!」




