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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第984話 勝者

 勝利を収めた涼花さんは渡されたマイクを強く握った。


「勝利者インタビューかと思ったけど、そういう感じでもないのかな?」

「何を喋るかは勝者が決める。弱者が誘導するなどあってはならない」

「それ、勝者が口下手で言いたいことと真逆に伝わったらどうするんです……?」

「それは、そいつが悪い」


 もしコミュ障の人が優勝したら、この国は終わるかもしれないな……。


<私は橘涼花、聖女院所属の聖女親衛隊長だ。人間代表として魔帝陛下を倒せたことを誇りに思う。魔族の中にはまだ人種族の方が弱いと思っている人も多いかもしれないが、私たち人間や魔族を産み出してくださった女神様は我々人間も魔族も強さの優劣は付けておらず、それは才能と努力で補えると仰った。その上で、今回は幸運にも私が勝ったが、これを機に人間の強さを知ってほしいと思う>


 彼女は謙虚にも自分のことではなく、長年の大きな諍いを鎮めることに目を向けていた。


<魔族の皆は長年邪神メフィストから強かったら何をしても許されると教えられてきたかもしれない。だが人間も魔族も関係なく、我々にとって衣食住は欠かせない。試合のコンディションを整えるための適度な食事は、毎日漁師の方々が新鮮な魚介類を取ってきて、それを料理人が提供くれなければ成り立たなくなってしまう>


 この魔帝国では海産物が食事の八割を占める海産物国家だ。

 これから五国との貿易も増えてきて別の料理が普及するかもしれないが、現状はほぼ海鮮料理しか買えない。

 そしてそれを用意する人達は本来感謝する相手であるが、魔族にとっては「弱くて他の魔族に勝てないから漁師や料理人をしている」という価値観でいたようだ。


<魔族は強さが至上であると聞いたが、この中で自分が毎日最強でいるためにどのような食事を続ければいいか考えたことはあるだろうか?パンや米、芋などの炭水化物、肉に多い脂質がなければ我々は体を動かしたり考えて戦うことができなくなる。肉体をいじめるだけでは筋肉や骨を作れず、たんぱく質が適量必要だ。だがどれも多すぎれば太り、自分の動きを遅くしてしまう。最強の体を作るにはこれらのバランスを考えながら食事をする必要があるが、朝昼夜同じ料理人でも雇っていなければそのバランスなど覚えているわけない。だから自分自身で覚えているしかなくなってしまう。私達聖女親衛隊は強くなるために食事に手を抜くことはしないし、そのために毎日我々の代わりに食事バランスを全て考えてくれる聖女院のコックには最大の感謝と敬意を持っている>


 この辺りは日本的な考え方なのだろうが、彼女はそれを葵さんからしっかり教えられてこられたからこそ許せなかったのだろう。


<強くなるにも強い武器がなければいけない。自らの獲物の刃のメンテナンスを怠って錆びたせいで相手を切れず、そのせいで負けて死ぬことだってある。古い油や汚れを打ち粉を使って落としたあと丁子油(ちょうじゆ)で錆止めをするくらいはするかもしれないが、(なま)れば研ぐ必要もあり、壊れれば新しいのを用立てする必要がある。だから自分の命を預ける武器には手を抜かないし、それを自分の代わりに整えてくれる職人には毎日感謝している>


 聖女院にもそういった職人さんはいる。

 基本的にメンテナンスは自分でやるか聖女がリカバーで欠けた刃を復活させるかだが、聖女が代わりにやるからこそ聖女院の皆は感謝の気持ちがこもっているのかもしれない。


<食事、運動、睡眠、勉学、訓練、武器。体を適度に休ませることで筋肉は普通より成長するし、睡眠を怠れば動けず、知識や頭脳がなければ頭も使えず不利になる。これらの何か一つでも欠けるだけで、我々は少し弱いということになってしまう。だからこそ、自分の代わりに何かをしてくれる相手に対して敬意を払うことを怠ってはいけない>


 気がつけばエリス様が涼花さんのそばにいて、マイクから放たれた言葉は拡声魔法を伝って世界中に届けられていた。


<そして魔族が皆人間を悪だと思い込んでいたように、我々人間も魔族は悪だと教えられてきた。そのせいで不快にさせてしまった魔族がいたことを申し訳なく思う。だが実際にはそういった人間も魔族も一部だけで、元々我々は邪神に利用され、邪神に殺されていた被害者同士だ。だから私達はもっと歩み寄れると信じている>

「私の奥さん、世界一格好いいなぁ……」


 僕やエリス様がすべきことを全部代わりに言っちゃうんだもん。


<今ここに魔帝国と五国の和平協定を結び、それを契機に私達はお互いの種族を尊重し合える世界を作る。その架け橋として私は勝者として、魔帝アビスと婚姻を結ぶことを望む!>

「えっ……えええええっ!?」

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