第98話 開示
午後。
「ソーニャさん、どちらへ?」
「冒険者ギルド」
「依頼でも受けるのですか?」
「来年の学費、稼がないといけない」
聞くと、成績のよいSクラスは奨学金制度を利用できるらしいけど、いつ成績が悪くなって自腹になるか分からないということのようだ。
「危なくないんですか?」
「Dランク。そんなに危険な仕事はない」
それもそうか……。
というかソーニャさん、Dランクだったんだ……。
僕は冒険者ギルドという懐かしい単語に惹かれるものがあった。
冒険者ギルドのランクは聖女学園のクラスと同じような構成だ。
Fから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。
「私も付いていっていいですか?」
「いいけど……」
「エルーちゃんも一緒に行く?」
「はい!」
冒険者ギルドハインリヒ支部は聖国の中心街のど真ん中にある。
重い戸を開け三人で中に入ると、やがて涼しい空気に満たされてゆく。
「すごい、ここが冒険者ギルド……」
ゲームでも人々が賑わっている姿は映っていたけど、こうして実際に見てみると壮観だ。
ハインリヒ支部は聖国の中心地であるからか天井は広く赤い絨毯が敷かれており、人も多くホテルかと思うような綺麗な見た目をしている。
正直一般的な荒々しい冒険者ギルドのイメージとは程遠い。
「なんだか綺麗……」
「ハインリヒ支部は聖国の中心地ですし、稼ぎも多いですから。それにいざというときの避難所としても使っているので、施設としても立派なものになっているんです。以前は荒々しいギルドだったそうですが、冒険者にご興味を持たれた聖女様方がこぞってハインリヒ支部をご利用なさったので、ハインリヒ支部は綺麗にすべきという周囲の声があがり今のような様相になっているんです」
『人が通ったところに道ができる』ではないけれど、聖女が通ったところが浄化されたかのように綺麗になっていくというのはある意味皮肉みたいなものだ。
「あら、ソーニャちゃん、お久しぶりね」
受付の美人なお姉さんがソーニャさんに挨拶をする。
「そちらの二人は初めてかしら?私は受付のミスティよ。よろしくねお嬢さん方」
「シエラ・シュライヒと申します」
「メイドのエルーシアです」
何故か「あくしゅあくしゅ!」と握手を催促され、一人ずつ握手を交わした。
スキンシップが多めの人なのかな?
「シュライヒ侯爵の……そっかそっか!あなたが噂のお弟子さんね!それで、今日はどんな用件かしら?」
「依頼探し」
「二人は?」
「ただの付き添いです」
そこまで言うと、ミスティさんはすこし考え込んだ。
「ギルドの依頼に同行する場合は冒険者の登録が必要なんだけど、二人は登録しているかしら?」
「私は、していないです」
「メイドちゃんはしていないのね。お弟子さんは?」
ちょっと気になったことがあったので、聞くことにした。
「あの、変な話なんですけど……以前登録したかどうか忘れてしまいまして……。過去に登録したかどうかを確認することは出来ますか……?」
ゲームでも冒険者ギルドのシステムはあったんだけど、完全におまけだった。
何故なら冒険者ギルドの依頼は、一度手に入れたアイテムをもう一度手に入れるために効率がよいだけの要素だったからだ。
最後のアイテム『聖女の片道切符』を手に入れるために必要なのは全アイテムコンプなので必要がないんだよね。
だから僕のようなアイテム収集癖のある廃人でもない限り、冒険者ギルドを積極的にはやらないだろう……。
それにアイテムが引き継がれているとは聞いたけど、ゲームの冒険者ランクが引き継がれているとは思えなかった。
「ああ、そういうことなら。ソーニャちゃん」
ソーニャさんが受付の机に埋め込まれた大きな水晶に触れると、ヴンと音がして水晶からまるでプロジェクターのように情報が写し出された。
名前:ソーニャ ランク:D
種族:人狼族 性別:女
ジョブ:アサシン LV.15/100
体力:105/105 魔力:105/105
攻撃:98
防御:46
知力:80
魔防:30
器用:82
俊敏:102
スキル
風属性魔法[初]、無属性魔法[中]
「おお……すごい」
思わずそのハイテクさに驚いてしまった。
「このように、登録済みなら冒険者の情報が出てくるようになっているわ。さ、お弟子さんもかざしてみて」
僕も手をかざしてみると、ヴンと音が鳴って映し出される。
「あら、登録済みのようね……っ!?」
あれ、ちょっと待って……。
さっきのソーニャさんのとき、性別って項目なかった……?
固まる三人を見て、何かを察してしまった僕は、怖くなって恐る恐る映し出された情報を見る。
名前:奏天 ランク:ES
種族:人種族 性別:女
ジョブ:聖女 LV.100/100
体力:999/999 魔力:955/999
攻撃:999
防御:999
知力:999
魔防:999
器用:999
俊敏:999
スキル
アイテムボックス、光属性魔法[極]、無属性魔法[極]
加護
女神エリスの加護
「はあ、よかった……」
そうか、ゲームのときは性別が選べなかったから、勝手に女になっていたのか……。
いやでも男なのに女扱いで登録されているのは詐欺みたいになっているけど、大丈夫なのかな……?
一番大事な身バレを回避したことで、安堵してしまいそんな呑気なことを考えていたけど、もっと別のことに気を回すべきだった。
「ESランク……!?」
「能力値が……」
「だ、大聖女……ソラ様!?」
「あっ……」
今まで隠してきた性別以外のものが全て見えてしまい、とっさのことに僕は否定する言葉を思い付けないでいた。
受付嬢のミスティさんは処理しきれない情報の山にパニックになりながらも、ひとまず自分の仕事を果たすべく動いた。
「ギ、ギルマスを呼んできますっ!少々お待ちを!!」




