閑話264 思春期
【ルージュ・テーラー視点】
流石に王族として話すならともかく、姉としてお願いされるなどと言われてしまっては、断ることなどできなかった。
私も二人のお兄様のお人好しに感化されてしまったのだろうか?
そう、私はお話を聞くだけ……。
「ルージュ!」
えっ……?
別のガゼボで開かれていたお茶会に案内されると、ララ様が私に駆け寄ってくる。
隣にいらしたスカーレット様やノエル様がお可哀想になるくらいにはやつれていた。
「ララ様、いつも以上に素敵でございますね」
「ホント?」
いつもはお洒落にそこまで気を遣わない――いや、それでなおあの美貌であることはハイエルフ種の特権とも言えるが――ともかく、彼女はお洒落をしない。
「恋より冒険」と自称するくらいの冒険者オタクだった彼女が、あからさまにバッチリ決められていることに私は驚きを隠せなかった。
「私ね、お慕いする人ができた」
親友といえるほどの仲ではないものの、何が言いたいか分かってしまった。
『――私の妹が道を外すのを、止めてもらえないかしら?――』
そして、女王陛下が何を懸念しているのかも。
「カエルム様のこと、ルージュならよく知っているはず」
「……聖女院所属になってしまえば、王家としての責務を放棄することになりますよ」
「聖女様が特例で王族の身分を残しながら聖女院で働くことを許可した事例がある。諦める理由にはならない」
「ですが、それはエレノア様ほどの聖女院に利益をもたらす御方であるからこそ許可されたのです。」
「それにそもそもカエルム様はもう聖女院所属じゃない」
「あっ……」
そう、ララ様は既にその正体を知っていたのだ。
知った上で、恋をしている。
「既に妻がたくさんおりますのよ?」
「知ってる。皆憧れで素敵な方々。諦める理由にはならない」
遅れてやってきた思春期を取り戻すかのように恋に溺れているかのよう。
それが私には羨ましかった。
私も妹になっていなかったら、こんな未来が来ていたのだろうか?
「ララ様、最後にひとつだけ」
「?」
「もし貴女が恋したお相手が性格以外すべて真逆であったとして、それでもあなたは彼の御方を愛せますか?」
「当たり前」
「性別すら、真逆だったとしても?」
小声で最後の質問をぶつけると、彼女はかつての無表情さが抜けたように顔を真っ赤にしながら、こくりと頷いた。
説得に失敗した私はため息をつきながら帰りの馬車に乗る。
「あっ……私はいいわ。先に帰ってもらえる?」
「ええっ!?どういう……」
「いいから、早く行きなさい。今夜は聖女院にお世話になるからと伝えなさい」
嘘の情報を流して見えなくなると、一緒に説得させられていた不憫な公爵令嬢達の馬車を見つけ、その足を止める。
「あなた、ルージュさん……?」
「ここは乗り合い馬車ではなくてよ?」
「いえ、未来のお義姉様方、方向が同じですので、お乗りしても?」




