第983話 引力
僕はゲームで重力魔法が使えなかったため、無刀『夢幻』も使うことができなかった。
だから『夢幻』にどんな舞技があり、それがどのようにすれば発動するのかという情報は一つも持っていなかった。
僕が知っているのは「使用者によってなんでもできる」というゲームでの説明文のみ。
だから僕は『夢幻』の舞はそれを操る人が常に新しく創造するものであると踏んでいた。
『夢幻』は使い手によって舞も違う。
そしてその刀の舞技が全て使えなければ、奥義は発動すらできない。
刀の元所持者である神獣・青龍はそう言っていた。
となると、一つの疑問がよぎることになる。
「『夢幻』が舞技を無限に創造できる」のなら、「すべての舞技が使えるようになる」ことは永遠に到達できない。
そうなると「『夢幻』に奥義は存在しない、もしあったとしても一生かけても発現できない」ということになってしまうのだ。
僕や『夢幻』使いである以前の涼花さんもそう結論付けていたが、真実は違ったらしい。
ここからは僕の予想になるが、『夢幻』は夢幻を実現する刀。
であれば、何個で舞技が完成するかは『夢幻』を操る本人が決められるのではなかろうか?
そして涼花さんは一つのゴールを創造した。
重心の乗った一撃は振り下ろしがほかと比べて遅かったせいか、アビスさんはそのまま鎌で受け止める。
そして別に重くなさそうな一撃に僕たちは違和感を覚えつつ、その成り行きを唾を飲んで見守っていた。
「奥義って聞いたからヤバイのが飛んでくるのかと思ったら……なんだ、受け止め――ぐぅゥゥゥッッ!?」
端から見たら情けない三下の台詞みたいだが、台詞を言い切る前にアビスさんは空中から地上に真っ直ぐに突っ込んでいった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
いや、自ら突っ込んだのではなく、突っ込まされたのか?
奇怪な声をあげて地面に突っ込んだアビスさんのところには地面の砂が煙のように舞い、それがやがてキノコ雲のように形作る。
やがて砂ぼこりが透明になってくると、見えていたのはクレーターだった。
「ぐっ、グウゥヴヴヴッッ!?」
「『魔有引力』は刃を合わせた相手の『魔力』対して印を施し、その相手の重力を自在に操る技。君はその魔力がある限りずっと過重力を受けることになる。私がいいと言うまで、お座りしていなさい」
「ぐっ……」
「――無刀・夢幻の舞、閻魔――」
動けないところをあっという間に刻み込まれ、魔族における体力である魔力がどんどん減っていく。
その証拠にあんなに大人のお姉さん姿だったアビスさんはどんどん小さくなっていた。
ビイィィィィィ――――
<勝者、橘涼花ッッッ――!!>
無慈悲にもそのまま勝者決定のブザーが鳴った。




