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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第981話 魔刀

「――無気解放――」

悪魔鎌召喚(サモン・ダークサイス)暗黒付与エンチャント・ダークネス


 二人とも準備として獲物に付与をかけていく。

 アビスさんは魔王と同じ鎌使いなのか。

 割となんでも使いこなすから、得意な武器などないと思っていた。


「おっぱい大きくて、邪魔なんじゃないの?」

「それはお互い様だろう……」

「僕は君みたいに武術一辺倒ではないからね」

侵食(インベージョン)


 アビスさんは牽制のように魔法を放とうとするが、魔法を発動する前に魔法陣を破壊されてしまう。

 普通は干渉できない魔法陣を魔力で破壊する『夢幻』の使い方は、やはり魔法使いからするとやりにくい存在だ。


「私の前で魔法は効かないよ」

「魔法は足止め。本命はこっち!」


 刃がつばぜり合い、その摩擦で刃と刃の間から火花が散り、その動きの素早さに衝撃波が出ていた。


 正直いうと、今までの涼花さんの刀を受け止められる動体視力と戦闘センスがあるだけで拍手ものなのだけれど。

 それはどちらかというと逆で、沢山食べてアビスさんがもとの力を取り戻したのではなく、涼花さんの速度が上がったのだ。

 魔法陣を破壊する速度が明らかに上がっている。


「涼花様、邪神から魔法を使わせたことで私やソラ様を失ってしまったことが許せなかったそうです。それであんなに沢山自分を追い込むようになってしまって……」


 私たちと違って命を削るようなことしたら危ないのにと、エルーちゃんは心配するように言う。

 僕の前では気丈に振る舞うから気付かなかったのが少し悔しい。


 確かに僕やエルーちゃんと恋人として一番近くで見ていた彼女が、その二人ともを失った悲しみは計り知れない。

 僕だってエルーちゃんを失ったとき自分の心が壊れるくらい哀しかったのだけれど、その比ではないのだ。


「刀術は弓や魔法と違って全体攻撃には向かない。でも各個撃破として考えれば、刀ほど優秀な武器はない……」


 涼花さんの舞を見ていると本当に踊っているかのようで美しさすら感じる。

 レベルが100を超え、ステータスも上がった恩恵はその刀術にも影響していた。


 『無気解放』は無属性の魔力を纏いステータスを倍にする『無刀・夢幻』専用の解放技だが、ステータスが上がればその上昇値も二倍になる。

 そしてその到達点は、やがて亀と侮っていた兎すら凌駕していた。


「あれあれ、防戦一方?」

「――八の型、空蝉(うつせみ)――」

「ほら、見えてるよ。空中は刀術士の弱点、そうでしょ?」


 空蝉で浮いた身体を的確に咎めていくアビスさん。

 以前学園長のことを戦闘狂などと揶揄したが、そう考えると魔族というのは産まれながらに戦闘狂なのかもしれない。

 闘いに勝てないと地位が上がらない価値観の世界であれば、戦闘のことに才能が特化してもおかしくない。

 FPS脳ならぬ戦闘脳だ。


「涼花様はいかに相手を支配するかをお考えになられていました。主導権を握ることで『負けない戦』を仕掛けることができます。その答えを、ついに見つけたのです」


 鎌が鼻を刈ろうとしたその瞬間、手につけていたグローブが光ると涼花さんはまるで斜め右上に落ちるかのような特殊な挙動をして回避したのだ。

 そうか、だから涼花さんは『魔甲』を付けていたんだ!


 それは無属性の重力魔法、彼女にしか使えない魔法だった。

 そして更に空中に物理障壁を張り、そこに足を付けるとそのまま障壁を蹴り直接アビスさんに向かって飛んでいく。


「――無刀・夢幻の舞、錬魔(れんま)――」

「なっ!?あぶなっ!?」


 そのまま全身にくまなく連撃を加えていくと、その速さに押し負けたアビスさんの鼻の魔力を刈り取った。


「二刀流、という言葉があるが、私にとってはそれは適切じゃないかもしれないね」


 そりゃあそうだ、()()使()()()()()()()()()()人なんて今までいなかったのだから。


「これが私の新しい『魔刀流』だよ」

「くっ、なんて女だっ!?油断できないなぁっ……!」


 彼女は速度と正確性を担保するために両手で刀を握っている。

 だから魔法使いは片手で近接武器を使ったり、グローブのように指が動かせる近接武器を使ったりして魔法と併用できるように工夫するのだ。


「ソラ様はよく私を天才だと褒めてくださいますが、私は涼花様こそ『努力の天才』だと思います。でなければ()()()()()()()()()()()使()()()など、『誰もが一度は考えても不可能とされていたこと』を実現できないですから」


 彼女は僕ですらできなかったことを、やってのけたのだ。

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