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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第980話 推量

「ちょっ、ちょっと待って、涼花さん!勝算はあるの?」

「完成したんだ、つい今朝ね……」

「えっ……?」


 まさか……!?


「涼花様、ついに完成したのですね」

「ああ、二人の乙女に華を手向けるよ」


 僕とエルーちゃんが繋いでいたその手ごと持ち上げ、口づけをする。

 だから乙女じゃないってば!




 先程の説明をしながら闘技場に向かう。


「本当に殿方でしたのね」

「騙しててごめんね」

「構いませんの。私だって迷惑かけたのですから、お互い様です」

「胡桃ちゃん……」


 まるでスタジアムのような闘技場は野球観戦のごとく賑わっていた。

 数えられないが、五万人は軽く収容できる超巨大施設に、満員で詰め寄っている。

 チケット制のようで、運営している国は相当儲けているらしい。

 相当まだできて数ヶ月だというのに、これだけで一大事業になっているようだ。

 今日アビスさんが参戦するのは完全に予定にないことだったのに、これだけの人数がいるというのはほぼ毎日満席になるくらい大人気コンテンツであるということを暗に示していた。


 僕たちはアビスさんが呼んだ賓客として特別な防魔窓ガラスのある部屋に案内される。


<さて、今世紀の一戦が繰り広げられようとしております!あの我が魔帝陛下が闘技場に帰ってきた!魔帝アビス!>


 右サイドから煙をあげて入ってきたのはアビスさん。

 格闘技の登場シーンくらい凝ってるし、何にお金かけてんだよ……。


「「ア・ビ・ス!ア・ビ・ス!」」

「チアリーダーまでいる……すごい人気だ」

<対するは人間代表は邪!神を倒し世界最強と謳われた大聖女ソラを護衛する聖女親衛隊長、橘涼花!>

「ニンゲン?強いのか?」

「ブー!ブー!」


 煙が上がっただけマシなのかな。

 当人達は戦争に直接関係なかったはずなのに、邪神の影響がこれほど色濃く残っているとは思わなかった。

 でもそれが数万年の邪神の『教育』のせいなのだろうな。


「完全にアウェーですね……大丈夫でしょうか?」

「彼女はもう集中しているよ、大丈夫。それにもう私はあの人の師匠じゃないから……」

「私はいつまででもソラ様の一番弟子でございますから、そんなに哀しそうなお顔をなさらないでください」


 エルーちゃんは僕の右手を掴みながら、まっすぐグラウンドの二人を見つめていた。

 顔見ていないのに、どうやって判断したんだ……?


「でも、信じてるから。さっきエルーちゃんが涼花さんに大量に賭けたのと同じだよ」


 問答無用でまた所持金全額賭けようとしていたので慌てて半分にさせたのだ。

 エルーちゃんは賭け事に強いわけじゃなくて、勝てる(いくさ)しかしなかったせいで変に全額賭ける癖がつくようになってしまったんだよね。

 このまま賭け事なんかさせたら絶対破産するだろうな。


「また私がなにも考えず賭けたとお思いですか?」

「それはいつも思ってるよ……」

「ひ、酷い……!」


 酷いのはどっちだよ。

 エルーちゃんもそうだけれど、あの魔境で大量の魔物や魔族を相手に生き残り、そして邪神を共に倒した戦友だ。

 その中には自分よりも図体のでかい相手や逆に小さくて厄介な相手など沢山倒してきた。

 その経験値から相手の力量を推し量る力は身に付いているのだろう。

 その知識と『いける』と思った根拠を、僕は信じるしかない。


<人間VS魔族の頂上決戦がいまここに、開幕ですっ!!>

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