第978話 交配
今さら繕っても仕方ないので僕はソラに、マリーナはエルーちゃんの姿に戻る。
女装に「戻る」っていうのもおかしな話だけれど、もう僕にとってはそっちがデフォルトになってしまったらしい。
性別なんて女性にもなれるし、もう今さらだろう。
「アビスさん、どういうことですか?」
「え……僕、エリスにちゃんと話を通したはずだよ。『エリスがなんでもする』権利、君ももらったでしょ?だから僕はその権利を使ってソラと子作りしたいから、ツガイにしてほしいってお願いしたんだ」
「……エリス様?」
『な、何よ……!私は会わせるだけって言ったじゃない。それ以降はソラ君が決めることなんだから、私は責任持たないって言ったわよね?』
「そもそもどうして私と……って話になっているんです?」
「エルーもシルヴィアも、神に作られた存在はそれ同士でしか交配できないんだよ。ソラみたく人であった時の遺伝子を残して下界の人や魔族と交配できるなんて、普通あり得ないの!」
「あっ……」
そういえばエリス様にそんなこと言われてたな。
「オスの神は君しかいないんだから、僕に種付けできるのは君しかいないんだよ。分かった?」
この世界での神の子作りは人間とは違い、遺伝子の代わりに神体の一部を混ぜ合わせることで行われるらしい。
だから双方に子を成す意思があれば胎外であっても子を作れる。
僕たちがわざわざ普通の人間同士の交配方法をしているのはイメージがしやすいからだ。
そうでなければ、子ができるかできないかを運に任せるようなやり方をする必要すらない。
らしいと言ったのはまだ前例がないからで、僕たち神族は交配で子を成した過去がない。
メルヴィナお姉ちゃんの子孫である天使エミュリアは堕天して人になってから人と番になったからね。
何より神体は魔法干渉で遺伝子をいじったりはできないから、卵子から精子にするなんて芸当もできない。
「り、理解はしましたが……」
「オ、オス……?」
あっ……。
「く、胡桃ちゃん……その話は、あとでするから。ね?」
「ぜ、絶対ですのよ……?」
「でもアビスさんだって寿命はないんだし、子孫を作る必要はなくない?」
「やだやだ!こんな書類地獄、一生やってるなんて耐えられない!」
子供作る側が子供になってどうすんの……。
僕と同じ声で駄々こねてるの、端から見ると自己嫌悪そのものだからやめてほしい。
「たとえ子供作ったとしても、その子が引き継ぎたくなるとは限らないのでは?」
「たくさん産めば、一人くらいやる気になるでしょ」
「そんな理由で子供作るの、親としてどうかと思いますよ……。エルーちゃんはいいの?」
「ええ、むしろその……捗りますから」
この子、絶対アビスさんが僕に化けて二人から攻められるみたいなの望んでるでしょ。
誕生日の一件から、エルーちゃんはもしかすると自分の性欲のために僕に多妻を望んだんじゃないかと思うようになったよ。
「それにリン様からもお願いされていますから」
「う……」
凛ちゃんまで買収されてたなんて……。
凛ちゃんがアビスさんの心を見据え助けたからか、二人は仲がいいんだよね。
「でも、それじゃあ愛情もなにも……」
「何言ってんの?愛情?あるに決まってるじゃない」
「えっ……んむぅっ!?」
「まあっ!?」
「っ!?」
彼女は僕を手繰り寄せ、強引にも唇を奪ってきた。
「魔族の女は一番強い存在に惚れるんだ。そういう習性がある一族なんだよ」
「み、認めません!私は認めませんから!」
その時、さっきまで震えていたヴァルグリードさんが勇気を振り絞って口を挟んできた。




