第976話 消滅
「申し訳ないですが、女王陛下のせいで仕事が増えました。寄り道をしても?」
「ええ、というより私に拒否権はありませんが……」
「二日後に到着出来れば問題ありません」
ヴァルグリードさん、魔帝国に帰るはずなのにまるで借りてきた猫状態だ。
いくら魔族が力を示さなければ舐められる風習とはいえ敬語を使うまでになるなんて、流石にやりすぎただろうか?
「ああ、それなら大丈夫です。一時間以内には向こうに着きますから」
「は……?」
エリス様がワープ陣を魔帝国に置いてくれたんだよね。
これでわざわざ魔境を通らなくても魔帝国に直接行けるようになった。
「忍」
「は!」
透けていた忍ちゃんが姿を表す。
「ひぃっ!?って、忍じゃありませんの……」
「消すから、後は頼んだよ」
「カエルム様とここでお別れとは、悲しみで一日中枕を濡らすことでしょう……」
おいおいと泣いているが、誰がどう見てもうそ泣き。
毎年聖徒会で演劇をやっているとは思えない大根役者だ。
シュライヒ公爵領から西の国の聖寮院へ移動すると、彼らは聖寮院に待たせておく。
「カエルム様っ!」
「ああ、愛しのマリエッタ。もうすぐ式だから、折がついたら一度帰ってきてくれ」
「ふふっ、幸せそうな顔してますねっ!」
ああ、あなたのお陰で僕は元気でいられます。
「そうやって見ると、年相応に見えますのに……」
「胡桃ちゃんは僕のことを何だと思っているんだい?」
「うーん……こんなことあまり言いたくはありませんけれど、その……女たらし?」
うぐっ……。
「……まあいい。行きますよ、忍、マリエッタ」
「招待状はございますか?」
「ああ、必要ございません。これから屋敷そのものが消えますので」
「は……?」
忍ちゃんが門番の人たちと話しているうちにホーリーデリートで屋敷そのものを消した。
施設以外のすべてのアイテムは証拠品としてアイテムボックスに入れ、後で聖女院に帰ったら精査してもらうことになる。
「きゃああっ!」
「翼付与……エリス様、お願いします」
『はあい♪』
落ちてくる人々を風魔法で浮かせ、全員身動きも魔法も使えない状態にしたのち、伯爵とグルになっていたひととそれ以外とをエリス様に選別してもらう。
「サザンクロス伯爵家の皆様、聞いてください。只今よりサザンクロス伯爵家は国際指名手配がかけられ、女神エリス様直々に関わった人物を選定させていただきました。関わっていないと判断された皆様は、聖女院から直々に次のお勤め先の斡旋をいたしますので、このままマリエッタ聖寮院長に従って聖寮院西の国支部に向かってください」
「こちらにワープ陣がございますからっ、一瞬で行けますよぉーっ!」
関わったひとは聖女院の牢屋へ、それ以外の人は聖寮院へと向かわせる。
そうやって30分程であっという間に屋敷にあったすべてを消し去ってしまった。
「おい!誰かいないのか!?」
「あなたがドルイド・サザンクロス伯爵ですね」
遅れてやってきた彼はきっと王家にでも呼ばれていたのだろう。
「貴様は……?」
「聖女様よりあなたには闇ギルドを使ってシュライヒ公爵家の次期当主を暗殺しようとした容疑がかかっています。拘束しなさい」
「なんだ、おい、やめろっ!!離せっ!!ワシを誰だと思っておる!」
「あなたが貴族だろうとなんだろうと関係ありませんよ。国家犯罪者として聖女院がきちんと調べて裁きます」