閑話262 神前式
【リリエラ視点】
「まあ、素敵ですわ、リリエラ様!」
本日は快晴。
いい結婚式日和ともいえる。
「うう……私のリリエラが、こんなに立派になって……!」
「お父様……もう、使用人の前で恥ずかしいですわよ」
「いいじゃないの、一生に一回の晴れ舞台なのですもの」
「この調子では、弟の時はまた大変ですわよ?」
結婚とはすなわち、女神エリス様に誓う儀式。
我々は女神様から与えられた命であるから、女神様に誓ってその種の繁栄を願う。
本来貴族の私たちは王家が用立てた神父にお願いする。
けれど私とルークはともに聖女院に勤める。
従って結婚式は聖女様が祝福してくださることが稀にある。
私は今回、ソラにお願いをしておいた。
結婚式自体はソラが無事に帰ってきたらやるつもりだったけれど、義弟でもあり親友でもあり、大聖女であり、エリス様の夫でもある彼に誓うことこそ、神前式として相応しいのかもしれない。
でも聖女院内部から見ると特に分かるが彼はとても忙しく、昨日まで聖国の事件を解決すべく動いていたほどだ。
天使になってしまった今、その行動も本来であれば自由で、聖女であれば聖女院でスケジュールを組むようなことが出来るが、それも不敬となってしまう。
だから本来であればソラが天使になる前に約束していたことだけれど、天使になったときに既に時効で、これはソラの温情で彼を神父役にしてもらったようなものだ。
でも彼は約束を破ったことはない。
そう信じていたのだけれど……。
「えっ……?」
ソラは壇上に上がらず、ただ座っていた。
何してるのよと言おうか迷ったその時、天井から光が舞い降りた。
一瞬ステンドグラスが輝いたのかと思ったが、そのお美しい姿に私は目を奪われた。
それは言わなくてもどなたであるかが分かった。
『皆顔を上げなさい。今日は二人の晴れ舞台だもの、今だけは特別に私を見ることを赦すわ』
「っ……!?」
『ほら、主役が膝を着かないの』
「は、はひっ!」
泣きそうになりながらおそるおそる顔を上げると、女神様は私を慰めるようにお優しい相好をなさっていた。
『リリエラ。あなたは病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓う?』
「はいっ、誓います!」
エリス様は私の震える手を掴む。
『ルーク。あなたも病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うかしら?』
「はい。女神様に誓います」
そしてエリス様はルークの手を掴むと、そのまま上に重ねた。
『私の大切な人の親友として、あなた達の誓いを承ったわ。お互いに幸せになるよう努めなさい』
「「あ、ありがとう、ございます……!!」」
ソラ、あんなに私に隠し事するなと言ったのに、まだするんだから……!
こうして私は、女神様に初めて直接祝福された結婚式を挙げたのだった。




