閑話261 神隠し
【ドルイド・サザンクロス視点】
「クソッ!クソッ!クソオオォォッ!どうしてワシがこんな目にぃぃっ……!」
サザンクロス伯爵家はもとはこんなに貧乏ではなかった。
二年前までは裕福だったのに、それもこれもあの忌々しい無能王太子のせいだ。
聖国のシュライヒ侯爵夫人の妹が嫁いできたため、ワシの家もシュライヒ家と多少縁がある。
だがワシは他国の、それも茶畑侯爵との縁など、他の王女派からろくでもない悪口を言われてきてろくな縁ではない。
しかし奴らは聖国王家に媚を売って貴族としての尊厳を捨ててまで手柄を立てやがった。
対してワシは政争に負け、アリシア王女派を指示していた我々は冷たい目で見られることになってしまった。
あんな平民の奴隷になるような貴族の味方になってたまるか……!
妻はシュライヒ家を利用してやれなどと宣っていたが、そもそもあやつが贅沢をやめれば済む話だというのに……!
全く、どいつもこいつも、金ばかり……!
「旦那様!」
「なんだ!?ワシは今忙しいんだ!後にしろ!!」
「それがその……至急、王家から招集が……」
「あんの無能王太子が……こんな時だけ呼びよってからに……!」
しかし王家の命令を断ると我々の立場が悪くなる。
全く、迷惑なことだ。
「あれほどキレた姉上は見たことなかったぞ。貴様、一体何をしでかしたんだ?」
「な、なんのことでしょう……?」
謁見の間に来ると、ワシのことを怪訝な目で見やがる。
要領を得ない質問に、ワシはとぼけておくしかない。
「……まあいい。我にはどうしようもなかったのだ。赦せ」
「は……?」
本当に何のことを言っている……?
「お前の屋敷、残ってるといいな……」
「はぁ……?」
「全く、一体何のために奴は呼んだというのだ……!」
帰り道、馬車で屋敷に帰った時、その意図がようやく分かった。
「は…………?」
ワシの屋敷が、跡形もなく消えていたのだ。
「ワシの屋敷……どこ……?」
まるごとなくなるなどあるものなのか?
まるで神隠しにでもあったかのようだ。
「おい!誰かいないのか!?」
辺りを歩き回っても使用人はおろか、誰もいない。
よもや、屋敷が消えたとでもいうのか!?
「あなたがドルイド・サザンクロス伯爵ですね」
膝をついてうなだれたワシに一人の男が話しかけてきた。
「貴様は……?」
「聖女様よりあなたには闇ギルドを使ってシュライヒ公爵家の次期当主を暗殺しようとした容疑がかかっています。拘束しなさい」
「なんだ、おい、やめろっ!!離せっ!!ワシを誰だと思っておる!」
ワシの計画が……どうしてバレたというのだ!?
跡継ぎのいないシュライヒ公爵家を乗っ取り、サザンクロス公爵になるワシの完璧な出世街道に傷をつけやがって……!




