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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第973話 神前

「エルーちゃん、準備はできた?」

「はい。ですが、本日のソラ様はもう少し聖女様らしいお姿の方がよろしいのでは?」

「いいの。ほら、あんまり目立つのはあれでしょう?今日の主役は私じゃないんだから」


 二日後に魔帝国に向かうと伝えたのには理由がある。

 今日は先約があったのだ。




 会場に着くと、晴天の光がステンドグラスに落ちて神秘的な光景を作り出していた。

 聖女院に建てられた教会の周りには木々が繁っており、その木漏れ日からミー散乱が起きているのだろう。

 そしてその勝ち残った光だけがステンドグラスに落ちてくる。

 まるでステンドグラスに映された虹色が空から落ちてくるかのようだ。


 そして今日はそのステンドグラスの光に照らされた一人の番が主役の結婚式。


「代行者様役は、やっぱりソラ様かしら?」

「ご親友ってお話ですし……」


 この世界の結婚式はいくつか手法があるが、どれも女神エリス様にお伺いを立てるように宣言するのが慣わしだ。

 神様の前でお互いが結婚することで幸せになると神様を説得するようなイメージなのだという。

 そうすることで余程のことがない限りは離婚なんてお互いに考えない。

 そういう意味では前世より重く、慎重なのかもしれない。


 でも実際に神様が見えるのだから、それくらい信憑性がある儀式なのだろう。


 だけどエリス様が現人女神でなくなってしまった頃、その女神に声を届けられる僕たち聖女が代わりに代行者を務めるのが一つ目の手段。

 でもすべての人に対してそんなことをしていたら、流石に聖女が過労で死んでしまう。

 なので基本的には直接の知り合いなどで当の聖女が望まなければ代行者は務めない。


 聖女の中にも前世での結婚式や神前式と同じやり方を望む人も少なくない。

 ウェディングドレスか白無垢か、一生に一度しかないのなら自分で選びたい人もいるだろう。

 そのため牧師さんや神父さん、僧侶さんと呼ばれる職業の方々に来て貰う従来のやり方もある。

 結局どの手法も女神の代行者であることには代わりがない。

 こちらは聖女を呼んだりはしないので極めて庶民的なやり方でもある。


 でも別のやり方もある。

 ひとつはシルヴィに来て貰って、エリス様を憑依させて女神が直接取り仕切る方法。

 これは僕たち聖女専用の結婚式でしか行わない特別なやり方。

 そしてもうひとつ、最近出来るようになったことがある――


「えっ……?」

「綺麗……」

「はっ、頭を下げなさい!」


 それは、現人女神が直接取り仕切る方法だ。


『皆顔を上げなさい。今日は二人の晴れ舞台だもの、今だけは特別に私を見ることを赦すわ』


 自分の結婚式がまさか主神に祝われるとは思っておらず、涙しながら膝をつく主賓に、『主役が膝を着かないの』と言われ、おそるおそる顔を上げていた。


『リリエラ。あなたは病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓う?』

「はいっ、誓います!」

『ルーク。あなたも病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うかしら?』

「はい。女神様に誓います」

『私の大切な人の親友として、あなた達の誓いを承ったわ。お互いに幸せになるよう努めなさい』

「「あ、ありがとう、ございます……!!」」


 僕が敬愛する彼らへのサプライズは、どうやらうまく行ったようだ。

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