第971話 甲冑
魔力量でいえばヴァルグリードさんと互角だが、彼と比べても強そうに感じない。
「テメェ、何モンだ!!」
「ここをアースウェイン様のナワバリだと知ってのロウゼキか!?」
先ほど穴を空けるために地面を消し去ったディバインレーザーを阻止できなかった次点で、その実力もたかが知れている。
僕が今どうやって入ってきたのか見なかったのか。
この穴がどうやってできたのか知っていれば、少しは気付くかと思っていたのだけれど、あてがはずれてしまった。
「『涼花、取り巻きは頼む』」
「承知した」
慌てて飛び起きたアースウェインさんは歩み寄ってくる僕の魔力量を見たのか、納得してくる。
「な、何だってんだよ、その魔力…………!!」
周りは荒くれ者というか、傭兵のように鎧を纏っていた。
その姿から魔法使いは一人もいないのかと思ったが、魔族は魔物と同じでステッキや杖を使わなくとも魔法を使えることに気付いた。
杖を使わないのなら、確かにその方が効率的なのかもしれない。
そしてアースウェインさんはオリハルコンの鎧を全身に纏っており、オリハルコンの斧を担いでいた。
まさに全身オリハルコン、オリハルコンマンだ。
成金武装すぎる……。
「こいつ、魔法が効かないぞ!」
「いや、発動を無効化してるのか……!?」
涼花さんは僕に近づく武装魔族を残らず片付けてくれる。
「『さて、貴様をどうしてしまえば戦意を失うか考えてみたのだが……』」
じりじりと歩み寄ると、オリハルコンマンは構えてこちらにやってくる。
「『先ほど大量に魔力を消費したせいで魔力が少ないから、ここは魔法を使わずに貴様を倒してやろう』」
「ザレゴトを……!オレサマは魔帝国イチの頭脳、そして魔帝国イチの盾と呼ばれたオトコ!この装備を前にひれ伏さなかったモノはいない!」
それ、さっきヴァルグリードさんから自称って聞いたよ。
まぁでも最強防具だし、硬さでいえばピカイチかもしれない。
頭脳は……まぁでも侵入してるし、臆病者こそ頭を使うのは上手いのかもしれない。
「オリハルコンのサバキを食らえっ!」
ダサい台詞とともに振り下ろした巨大な斧の刃を素手で掴むと、そのまま握り潰してバリバリと割っていく。
そのまま柄の部分から斧を奪い、真っ二つに折って、そこからまた握り潰す。
一分も経たずにオリハルコンの斧は破片になってしまう。
「なあっ!?」
「『さて、次は甲冑か……』」
「ひ、ひいっ……!」
逃げる気があったのか分からないけど、そんな重たい装備してて逃げるなんて無理でしょ……。
案の定捕まると、そのまま足を掴んで遠心力で投げる。
その時に足のオリハルコン装備が脱げ、僕はそれを握り潰す。
物理攻撃は効かないと悟ったのか闇属性の弾丸を飛ばしてくるも、障壁で無傷だった。
聖女学園の三年生の方がまだまともな魔法使ってくると思う。
これ、魔法に詠唱が不要だから甲冑を着ているんじゃなくて、単に魔法が苦手なだけなんじゃ……?
「お、おタスけ……」
「『沢山人々を玩んでおいて、自分がされる側になったら助けを求めるのか?とんだ愚か者だな』」
腕、胴、そして最後に頭とオリハルコン装備を剥がして粉々にしていくと、最後に現れたのはおよそ高貴とは言えないような情けない顔だった。
「こっちは終わったよ」
「『ご苦労』」
いつの間にか壁際に彼を追い詰め、左手で左手を掴んだまま壁に指をめり込ませて固定し、そして全力の魔力を込めて右手を振りかぶる。
「『人を騙したツケだ、一撃で罰を執行してやる』」
「ヒィィィィイイイッッ!」
顔に向かってパンチを繰り出すと、彼はその場で膝をついていた。
「『安心しろ、峰打ちだ』」
生命の危機に全力で目を瞑ったからか、顔が萎れた干し梅のようになっていたが、直接殴ってはいない。
すんでのところで横にそらしたパンチは衝撃波を伴い壁に当たり、その壁は大きなクレーターを形成していた。
闇ギルドのボスは、パンチが当たる前にもう気を失っていたのだった。




