第969話 従順
「心読の力は私利私欲の為に使われるべきではない……。あの力があるべき場所に帰られたようで安堵いたしました。公爵の手に負える代物でも御座いませんもの……」
聞かせるべきじゃなかったと反省し、話の途中で憑依を解除する。
「彼女はモノではありません。サンドラ陛下を妻に持つあなたであれば、そのようなことは仰らないと思っておりましたが」
「失礼しました、どうにも最近王家として話すことが多かったものですから、ついクセで……」
「そもそも彼女は闇の聖女。あまりこんなことは言いたくありませんが序列はディアナ皇后陛下より上ですよ」
「な、なんと……!?」
雷の聖女であるシルヴィと同じで、光の聖女よりは下かもしれないが、次点で高い聖女の配偶者よりは上になる。
「それは失礼を……」
<カエルム様、その辺で。私には過分でございます>
やがて後ろから声が漏れてきた。
「アースウェインだと!?」
「ヴァルグリード殿、アースウェインという名に聞き覚えが?」
「む……まさかあの男の名を聞くとは……。奴はノーブルデーモン族いちの強者。我が負けたことはないが、良い勝負をする輩だ。奴がまさかこんなところで闇ギルドの長をしているなど……」
天井に100体もの魔族が張り付いていたというのに、誰も気が付かなかったのが気になっていたが、僕は協力者が手招きしたと思っていた。
しかしこの王宮の地下に居たとなれば話は別だ。
地下からここに繋がるルートがあったとして、
『今期の魔帝は、生ぬるいことを言っておる!』
捕まった老兵の一人が魔法で会話をし始めた。
自害防止のために塞がれた口を使わなくとも会話する手段があるくらいには魔法技術が発展しているのか、魔帝国は。
『どうせニンゲンなど魔帝に比べれば大したことない魔力なのに、何故そんな輩に従わなければならぬ!道理に反している!』
老兵が保守的でないというのは少し珍しい気もするが、魔族とはそういう価値観なのだろう。
「では、受けてみるといい」
1万の魔力を圧縮し、空気圧のように放出する。
死にはしなかったが、そこに収容されていた魔族達がまるで衝撃波に殴り飛ばされたかのように吹っ飛ばされた。
魔力は半分くらい減ったが、黙らせることには成功し……あれ?
「おええっっ!」
魔族達が一気に吐き気を催したので慌ててヒールをかける。
僕の後ろに居たはずのみんなも少し体調が悪くなっていた。
魔力酔いみたいな感じなのかな……?
「カエルム様、やりすぎです……」
「こほん。ともかく、これで平和的な解決を目指したい私たちの気持ちは分かってくれたかな?」
「い……」
「い?」
「「イエッサー!」」
なんか急に従順になった……。




