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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話259 養子達

【嶺肇視点】

「はぁ……サツキの奴、俺をアプリ開発マシーンか何かだと思ってねぇか……?」

「お疲れ様です、ハジメお祖父様」


 今日は仕事休み。

 ソラの養子達とお茶をすることになっていた。


「ソラと同い年の奴におじいさまなんて言われたくねぇよ、勘弁してくれ……。ソラは18だし、俺はまだジジイって歳でもねぇだろ……」

「……では、ハジメおじさまで」


 シェリーは世渡りがうまそうだが、セフィーは生真面目そうな印象がある。

 だが問題はシルクだ。


「ハジメ様、あまりサツキ様のことを悪く言うのはおやめください」

「……お前らは聖女を神様のように崇めてるかもしれんが、案外その聖女様も畏まられるのには慣れていなかったりするだろう。サクラはいいとこの嬢ちゃんだが、俺らは普通に向こうでは平民なんだからな。お前らも急に周囲から敬語を使われるようになって戸惑うことはなかったか?」


 とくにシルクに関しては一番その気持ちが分かるだろう。


「ですがそれをお決めになるのは聖女様であって、あなたではないのでは?」

「じゃあ本人に聞きゃあいいじゃねぇか。どっちにしろ嫌なら本人から言ってくるだろ。お前のご主人様はそんなことも他人に管理されないといけないほどヤワな奴なのか?」


 俺だってちゃんと言う相手は選んでる。

 流石にあの気弱なリンに同じような真似は出来ん。

 あんな風が吹けば吹き飛んでしまいそうなやつ、少し高圧的にしただけで絶対泣かれる自信がある。


「ちょっと、ハジメおじさま!シル君はサツキ様の前で素直になれないだけなんですから、そっとしておいてあげてくださいよ」

「っっ、シェリーお姉様っ!」

「そんくらい見てりゃわかるって。こいつが『嫉妬してる』って正面から素直に言わないから拗れてんだよ」


 執事なんだから仕事中は付き添う必要などないのだが、四六時中ベッタリだ。

 周りだって早くくっつけと思っているってのに、思春期真っ只中で跳ね返ってるせいで拗れてやがる。


「ガキの頃に後悔したことは一生付き回るってもんだ。お前にその後悔を一生背負う覚悟はあるか?」

「…………」


 もっとよく考えろと言いながら髪をくしゃくしゃにして撫でる。


「おじさま、少し痩せましたか?」

「酒を飲まなくなったからな。もう間違えたくねぇんだ」

「でもそれではストレスがたまっていらっしゃるのでは?」

「ストレスっつーか、罪悪感だな。してしまった後悔は、一生消えない。なら一生俺は残りの余生を全部ソラにしてあげられることに費やす方が分かりやすいだろ?」

「大人っぽい回答ですが、お義母様が一番望んでいらっしゃるのはあなたが健康で長生きしていただくことかと思いますが……」


 セフィーに言われなくとも、俺だってそれくらい分かる。

 だがそれは俺が働けなくなってから考えればいいことだ。


「大人ってのはな、子供の頃から色々なものを積み重ねてなるもんだ。そいつは経験、歳、思い出、本当に色々だ。だからよく『いつから大人なのか』と聞く子供がいる。『成人』はこの国では15歳かもしれんが、『大人』ってのは辞書のように明確に何歳からなんて線引きがないんだよ」


 唐突に始まった説教に剥き出しの怒りを向けられ、俺はそれを宥めるように頭を撫でた。

 実の息子の前だとろくに話もできんのに、他人だとこうも饒舌になるものか。


「いい思い出も悪い思い出も重ねていくが、いい思い出ってのは覚えていようとしないと次々と忘れていく。だが過去にした悪いことってのは何年前だろうとすぐに引き出せるし、その時思っていた罪悪感や恥ずかしい気持ちなんてのも思い出せる。それを重ねていった『悪い思い出の辞書』が、『大人』ってことだ」


 別に俺はこいつらの親でもなんでもない存在だが、これくらいは言ってもいいだろう。


「だからお前達は後悔するような選択をするな。これが最初で最後にお前たちにしてやれるアドバイスだ」


 シェリーがパンパンと仕切り直すように手をたたく。


「はいはい、辛気臭いのはおしまいですよ。せっかく集まったのですから、お義母様のお話をしましょう!」

「子供の頃はどうだったのですか?」

「そういや実家から持ってきた子供の頃の写真があるぞ。一緒に見るか?」

「「「見ますっ!!」」」


 ……食い付きすげぇな。

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