第964話 利口
パーティーは中止、僕たちは王宮の要人応接室に案内された。
何故僕の参加する貴族のパーティーは、こぞってこうも問題が起きるんだろうか……。
魔族達とフィリップ君、それにペリドット嬢は魔法を使えない牢に入れられ、マヤさんが監視についている。
全員に僕の聖印をつけているため、たとえ逃げたとしてもいつでもまた捕まえられると念押ししておいた。
ここにいるのは僕、涼花さん、それに王家と魔帝国の使者ヴァルグリードさん。
ルージュちゃんとララちゃんは一命を取り留めたものの気絶していたので、王宮の看護室で寝てもらっている。
「はぁ……やはりあなたが現聖国宰相でしたか、シュライヒ公爵」
ルージュちゃんのことをあまりにも見てなさすぎる振るまいに、僕は違和感を感じていた。
公爵領のことはセレーナお義母さんとルージュちゃんに任せていたことを忍ちゃんから聞き、王宮の宰相にでもなっているんじゃないかと踏んだのだ。
「……ここではなんとお呼びすれば?」
隣にいた涼花さんが立ち、僕とマリーナがソファに座っているのを見て、流石に僕が誰か気付かないわけはないか。
「公爵には一週間前に文を送っているはずですが……帰っていらっしゃらないなんて、また夫人が怒りますよ?」
「それは面目ない……」
「カエルムとお呼びください」
「マリーナと申します」
「ソフィア陛下も、一週間も臣下を帰らせないとはなかなかに邪悪ですよ……」
「ぜ、前任が胃痛を訴えて退職いたしまして、特に今は出産パーティーと重なりましたので……」
「前任の宰相殿から引き継ぎはしたのですよね……?」
「…………」
えぇ……マジか。
道理で公爵領に帰っていないわけだ。
「し、師匠……!」
おねだりする女王とか誰も見たくないよ……。
如何せん顔がいいだけにズルいが、僕も絆されるようなことはしない。
「はぁ……後で前任の方を治しておきますから、早いところ引き継いでください。そもそも一人にだけ任せるからこうなるんです。それにせっかく端末があるんですから、遠隔でビデオ通話してお仕事すればよろしいではありませんか。直接の承認が必要な時以外は王宮に要る必要はないはずですよ」
「はい、面目ありません……」
「貴族としてのお勤めと官職としてのお仕事を兼任させたいのでしたら、まず王家はそれが両立できる環境を整えるべきです。そうでないのなら、兼任する必要のない領地を持たない名誉貴族や平民から募る手もあるのですから。前任が胃痛を訴えているのも、きっとそのせいではございませんでしたか?」
「お、仰る通りです……」
他の王家や従者も言葉の端々から僕が何者であるかは分かったらしい。
「まず彼から行きましょう。マリーナから報告は?」
「ええ、先ほど拝見しました。五国の貴族令嬢や令息が使者殿に失礼を……正式に謝罪いたします。申し訳ございませんでした」
「い、いえ……。しかし、ここにはバケモノしかいないのですか?」
「それは……魔族なりの褒め言葉として受け取っておきますね」
先ほどから大人しいと思っていたが、僕の弟子達に驚いていたのか。
さっきとは打って変わって急に敬語を使い出しているし。
僕には使わなかったのに、流石に王家には使うのか。
「魔帝陛下には後日ヴァルグリード殿と謝罪に向かうことになっています。そこで五国から手土産と付き添いをお願いしたいのです。僕は五国に属しておりませんから、正式に謝罪する存在が必要です」
「なるほど、そうですね……ヴァルグリード卿は付き添いにご希望は?」
「んんー……それですと、さっきのクルミ、でしたか?それがいいですね」
「おや、気に入りましたか?」
「ええ。彼女はとても利口でしたから」
胡桃ちゃんに蛇の道を進ませるわけにはいかないと思っていたが、もう手遅れなのか……?
僕も最初に優しくしてくれたエルーちゃんに惚れたし、そういう意味では人も魔族も案外変わらないのかもしれない。




