第962話 油断
ざわめきが響き渡ってくると、次第に人を巻き込んでいく。
気付けば大勢の人々が僕たちの周りを囲んでいた。
「わ、私はエメラルドです!ペリドットは高熱を出していてまともな思考ができなかったのでは?」
「…………」
別に二択以外の回避方法もあったかもしれないが、人はあらかじめ二択を提示すると、そのどちらかを選ばないとという思考に陥ったりする。
男遊びをしている張本人という不名誉は流石に避けたかったのか、手を震わせながらも自分はエメラルド嬢であると言い張った。
貴族令嬢は演技力が物を言う世界だとリリエラさんから学んだが、彼女は役者としては半人前。
……悪役を見るとすぐに姉と比べたがるのは悪い癖かもしれない。
でもそのお陰でまだマシだと思わせ、アンガーマネジメントに一役買ってくれているのは有難いことだ。
なんたって姉は世界を支配しようとした大犯罪者だ。
……血の繋がった家族が大犯罪者って、僕は大丈夫なのだろうか?
僕も聖女だから許されてるってだけで、女装で女学園に入るなんて本来いけないことだし……人のこと言えないかも……。
「……なるほど、調査に協力して感謝するよ」
ちょろいとでも思ったのだろうか?
笑みが漏れているよ。
「驚かせてしまったお詫びに、このペンダントをお渡ししよう。聖女様からいただいた一品なんだが、僕が持っているより君に相応しい気がしたのでね」
「まあっ……!ステキ……!」
聖女は自分なので、まぁ嘘はついていない。
そして、人は窮地を乗り越えたときが一番油断する。
「触れたね?」
名前:ペリドット・マクリミアン
種族:人種族 性別:女
ジョブ:貴族 LV.12/100
体力:76/103 魔力:102/102
攻撃:60
防御:46
知力:69
魔防:47
器用:102
俊敏:86
スキル
水属性魔法[初]・無属性魔法[初]
僕が渡したのは、触れただけで鑑定を行う『魔水晶』を加工したペンダント。
「残念だよ、ペリドット嬢」
氷の複雑そうな輪が手首と足首にかけられ、それを鎖で繋いだ。
手綱を引いていたのは、マヤさんだった。
「な、何をするッ!!」
「はぁ、せっかくプライベートで来ているのに、仕事させないで欲しいわ……」
「君たちには王女ララに毒を盛った容疑がかかっている。大人しくついてきなさい」
「こちらも捕まえたよ。毒をワイングラスに注いだ共犯者はこの執事のようだ」
流石は聖女学園の首席と次席ペア、仕事が早い。
「ちょっ、ちょっと!?これはどういうことですか!?」
人の波をくぐり抜け、やっとこさ女王がこちらへやってくる。
「遅いわよ、ソフィア陛下」
「これは貸し一つですよ」
女王をいびらないでよ、二人とも。
マヤさんが執事も捕まえ、そこで終わったと思っていた。
「少しは説明をですねぇ……!」
「「っ!?」」
「なんだ」
「照明が急に……!?」
なんとフロアの照明が全て落ち、真っ暗になったのだ。




