第955話 失策
二手に分かれるのは失策だった。
でもこの広い王城で人探しをするのに手分けは必要なのは間違いないし、ハイエルフが王を務めるこの王城で魔法を使うわけにもいかない。
「嬉しいお誘いだけど、僕には可愛い妻がいるんだ。それに少し人探しをしていてね、ご縁があればまた会おう」
「ああ、カエルム様……!」
身分を隠している身で、了承なんてしてしまえばもはや事故だ。
彼女達もまさかこのやりとりで貴族の身分を捨てる覚悟までは持ってはいないだろう。
僕はその場を離れて令嬢達から距離を取る。
家族以外でダンスの相方に選ぶ行為はこの世界ではキープかそれ以上の関係。
まさか聖徒会長と生徒という健全な関係が裏で崩れていたなんて、笑えない話だ。
「聖女学園の元聖徒会長をキープした」なんて字面すら終わっているけれど、どちらかというと今僕が感じているのはなんというかこう、凄い申し訳ないという感情しか沸かない。
それはもちろん今身分を偽っていることもそうだけれど、それ以外によるところが大きい。
だってちょうど一年前くらいに聖徒会の目安箱の相談でこの中の一部の子の失恋話とかお洒落のアドバイスとかした子もいるんだよ?
こちとら「長女はお前くらいの年で伯爵家の次男を手に入れた」なんて父親から度々圧力かけられて気分悪くなったり、家に居心地が悪くなったりしているのを直に聞いているんだから。
うーん、神流会長やルージュ副会長に今度相談しておこうかな……。
<見回したけど、まだ来ていないみたいだ>
<も、申し訳ございません、カエルム様!私も捕まってしまいまして……>
あらら……遠巻きに見るとマリーナの方も令息や貴族に捕まっているや。
やっぱり貴族だ平民だなんて眼鏡がなければ、彼女は誰もが羨む絶世の美女なんだよね。
以前も聖女祭でナンパされていたし、もし悪い虫が付くのなら僕より彼女が先だろう。
とりあえず身体強化して貴族の間を縫って進んでいく。
「僕の妻に何か用かな?」
「カエルム様っ!」
「少し挨拶をしたい人がいてね。申し訳ないけど、妻を連れていかせてもらうよ」
「っ、なんだよ、夫持ちか……」
「い、行こうぜ……」
やっぱり僕ら25歳だと思われてないよね?
20歳以上は背なんて伸びないし、いっそもっとおじいさんくらいの姿になっておくべきだったかも……。
「ありがとうございます、カエルム様」
「気を付けてよ、マリーナは美人なんだから……」
「それはお互い様、ですよ……」
僕の腕を掴んでそう言うマリーナの顔は少し赤くなっていた。
「ねぇ、あそこにいるの、魔族じゃない?」
その時、近くでひそひそと話し声が聞こえた。




