閑話25 聞き耳
【ミア視点】
夏休み前の最後の日。
私は尻尾を垂らしてぼーっと掲示された貼り紙を眺めていた。
「どうした?らしくない」
横から聞こえてきたのは涼花。
……と影から見ているようでバレバレの涼花ファンクラブの皆。
「……てっきり成績が下がって落ち込んでいるのかと思ったが、前より上がってるじゃないか。」
「それ、万年主席が言うと嫌味に聞こえるよ……」
真面目な顔をする涼花。
こういう顔をするときは冗談じゃないから真面目に答えてくれと主張しているときだ。
「何か、あったのかい?」
点数が上がったのは、シエラちゃん……いやソラ様が戦闘実技の極意を教えて下さったからだ。
そう。ソラ様が……
「ねえ涼花」
「なんだ?」
「もし、もしだよ……」
「随分と勿体ぶるね」
「もし、知り合いの真実を勝手に知ってしまったら、涼花なら本人に言う……?」
――それは数日前のこと。
「…………ふぅ……一段落ぅ」
いつものように部屋にこもって試験勉強をしていた私。
コップの紅茶が無くなったのであたらしいのをいれようと下に降りた私は、ふと話し声が聞こえてきて階段の途中で立ち止まった。
「――遠慮なく相談してね。私にはそれくらいしかできないから……」
「あの、実は内緒にしていただきたいのですが……」
この声は、フローリアさんとソラ様かな?
聞いていいことなのか分からなかったけど、私はソラ様の秘密の一端を知れることに興味を覚え、隠れてしまった。
「なあに?早速、相談かしら?解決は……できないかもしれないけど、聞くことだけならいくらでも聞いてあげられるわよ!」
その行動が私の過ちとなった。
「私、本当は男なんです」
「……っ!?」
思わず声が漏れてしまいそうになるのを必死に押さえる。
「ソラ様が……男の子……!?」
私が叫びたいくらいだ。
ソラ様が……殿方!?
それは最早、神様のいたずらだろう。
「ほ、本当に……?ウソじゃないわよね?」
「ええ。私はエリス様に性別を隠してこの学園に入るように言われました。何故か今でも隠し通せているのが不思議でならないのですが……」
「いや、そんな可愛い見た目じゃあ男の子だなんて全く信じられないわ……」
私もそう思う……。
でも、エリス様が恋をしているのは異性だったんだね……。
「このことはエルーちゃんとかルークさんとか、聖女院でも極一部の人にしか明かしていない内容なので……できれば内緒にしてもらいたいです」
そこまで言われて気付いた。
これは絶対に、私が聞いていいものではなかった……。
私はもの音を立てずにゆっくりと上の階に戻り、自室に戻った――
「内容によるね。それは話せることかい?」
「いや、無理……」
流石に神様が絡んでいることだ。
私の一存で決めては下手したら怒りを買ってしまうかもしれない……。
「それなら判断がつきようがないけど、1つだけ言えることがある」
「な、何?」
「私も以前誰にもいえない秘密をシエラ君に話したことがあるのだが……」
涼花の秘密も気になるけど、それよりもここでまたソラ様の名前を聞くことになるとは思わなかった。
私の件を詮索しないでもらう代わりに、私も聞くべきではないかな。
「それを話してからシエラ君から噂が漏れることはなかったし、シエラ君からそのことについて詮索されたことは一度もない。まあ、そういうことだよ」
なるほど……。
シエラちゃんなら、それを本人に詮索するような愚行はしないと言いたいのだろう。
「ふふふっ」
奇しくも何も知らない涼花がチョイスした事例がソラ様本人で私は笑ってしまった。
「やっといつものミアに戻った。ミアは笑顔で元気なのが一番素敵だよ」
「そういう勘違いするような台詞ばっか言うんだから……。涼花はそろそろ刺されて学ぶべきだと思う」
「私はその時を待っているんだがね……」
皆涼花には嫌われたくないんだから、わざわざ本人を刺すわけないでしょうに。
刺されるとしたら、お相手よね……。
「ありがと、涼花」
まだこの驚愕的な事実を呑み込むのには時間がかかりそうだけど、少しだけ気が晴れた私は友人に感謝した。




