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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第949話 二億

氷結(フロストバインド)


 水魔法で凍らせて、物理で砕く。


 光以外の属性の練度を上げられるようになるなんて思わなかったけれど、いきなり全属性使えるようになって、選択肢が増えすぎてしまった。

 こうして練度上げのために沢山魔法を使っているけれども、各魔法1万回も使うなんて途方に暮れる作業だ。


「流石です、カエルム様。ほとんどの属性の魔法を書を読まずに暗記なさっているなんて……」

「ゲームに登場する魔法は自分の魔法だけでなく、相手や味方が使う魔法もすべて覚えたからね。でも名前と効果とメリットとデメリットを知ってるだけで、魔法陣までは暗記できていないんだ」

「魔法陣まで暗記してたら、異常」

「でもいつかは全魔法陣を暗記したいね」


 幸い発動は詠唱をすればいいから、それを逐一端末のカメラで撮影して暗記アプリに入れておくだけ。

 パパに頼んだらものの一時間で暗記アプリを作ってくれた。

 あとは隙間時間に見て暗記するだけだ。


「向上心の塊」

「私も他の属性の魔法を覚えた方がよろしいでしょうか……?」

「うーん……でもたまにエリス様を降ろすこともあるんだし、覚えておくといいと思う。あとでマリーナにも共有できるようにお父さんに頼んでおくよ」


 撮った魔法陣は伝道師から派生した魔法陣解析学者の皆さんに回す資料にしたり、上級までは魔法書にして売るなりいろいろ用途はある。

 案外知られていない魔法もあるみたいなので、ここは僕の廃人知識が使える場だと思う。


「『パパ』、じゃないの?」

「流石にこの姿で言うのは抵抗があるさ……」


 本当はエルーちゃんにもいつものようにちゃん付けをしたいけど、流石にこの深層の令嬢の見た目の相手に対してちゃん付けは格好がつかないだろう。

 パパの趣味に付き合う必要はないのかもしれないけど、僕のためにアプリを作ってくれるし、前世を捨ててこっちに追ってきてくれたパパの願いはある程度は叶えたい。

 でも流石に本人のいないところで言うつもりはない。


 口調も演技ではあるものの、それなりにしっくりくるものを見つけることができた。

 自分を演技するなんておかしな話だけど、きっと大人というものは無意識にそうやって自分をすり合わせしていっているのだと思う。


「ありがとうございます。ソラ様は常に最優秀の頭脳をお持ちですのに、知識を蓄えることに関してとても積極的ですよね」


 むしろ地頭が悪いと思っているから知識で補おうとしているんだけどな……。


「たとえ学園を卒業しても、人生は常に勉強だよ。マリーナだって、毎日お料理の本読んでるよね?」

「そ、それはそうですが……。でも、私が得ている知識なんて、そんな崇高なものでは……!」

「知識に貴賤なんてないさ。今蓄えておけば、いつか使えるときが来るかもしれない。これから何千年と生きる僕たちの場合、そのいつかが来る可能性が高くなるだろう?」

「カエルム様……」

「しかし、エリス様は僕にとんでもない課題を渡してきたよ……」

「すべての魔法の練度を最大にする……ですが、期限はないのでしょう?」


 この世界に属性は8個、そしてそれらすべてを使った魔法の属性の組み合わせは8通りではない。

 それは二属性以上の合成魔法の可能性があるからだ。

 そうなると属性の組み合わせは2の8乗、つまり256通りとなる。

 その256通りそれぞれに対して例えば100個の魔法が存在していたとしたとき、それらすべてを10000回発動しないと最大にならないなら……。


「二億回も魔法を使わないといけないなんて、途方もないね」


 多分エリス様は僕が長く生きることに飽きたりしないように配慮してくれたのだろう。


「まぁ時間はいくらでもあるから、毎日コツコツとやっていくことにするよ。そういえばソーニャさんってどんな二つ名なの?」

「『沈黙の獅子』」


 う、ずるいよ……。

 エルーちゃんもいつの間にか『水の賢者』から『水の聖女』になってるし、僕もそろそろ『乙女の秘密』を卒業したいんだけど……。

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