第948話 背伸
「ソラ様」
「カエルム」
「むぅ、慣れない……」
「ごめんね、付き合わせて……」
その日は身体を慣らすためにソーニャさんとエルーちゃんで迷宮に入ることにした。
ソーニャさんは僕の寵愛で上限の上がったレベルとステータスを上げたいと言っていたし、僕たちもついでにレベル上げがしたい。
「いい。迷宮デート、久しぶり」
「迷宮デートなんて、物騒な単語すぎます……」
「物騒なことなんて何もないよ」
三人中二人は不死身だし、その不死身の僕が回復魔法を使えるのだから、大抵のことでは死なない。
でも迷宮なんてロマンチックの欠片もないデートスポットを選ぶロクデナシの烙印は押されたくないので、これがデートであるとは言いたくはないけれど。
思えばろくに恋人らしいこともせずに結婚してしまったので、みんなはそれを求めているんだろうか。
成り行きで娶ったといえばそうなんだろうけど、僕のことを本気で心配してくれた妻達には幸せになってもらいたいので、ちゃんと時間ができたらデートして沢山愛を伝えたい。
……できれば子を作る前にそうしたいんだけど、時間が足りるだろうか……?
いや、僕やエルーちゃんには時間が腐るほどあるけれど、周りはそうではないからね。
でもエルーちゃんはなおざりになんてしたくない。
人生において時間に縛られなくなったのに、その時間に翻弄されているのはなんと滑稽なことか。
「ですが、今までの迷宮も難易度が跳ね上がったではございませんか」
邪神が消えてから、世界に魔力が分散されるようになった。
むしろそれだけ邪神が大気中の魔力から吸収して一ヶ所に集めていたことが凄いことだが、そのお陰で僕たちも魔物も魔族も魔力の供給が普段より多くなる。
今まで魔力欠乏症になるハイエルフがあとをたたなかったのも、これが理由だったらしい。
「僕たちも強くならなきゃいけないんだよ」
魔物も魔力の供給が過剰になり、いつもよりも動きが早くなったり、魔法を連発したり、より巨大な個体が出現したりしたらしい。
邪神が討伐されたからといって魔物がいなくなるわけではないし、そういう意味では世界の危険は増えたのかもしれない。
でもこの危険は鍛えれば未然に防げるものであり、僕たち人間側もその余剰魔力を魔法や身体強化に充てられるのだから、真に平等になったともいえる。
何より邪神がいなくなったことの恩恵は魔王や四天王などの国や世界を乗っ取ろうとするレベルの悪行を行う存在を再び産み出させなくしたことだ。
「そういえば朱雀寮の最初の同期メンバーだね」
同じ寮で三年間も過ごした関係がまさか卒業してからも付き合いがある間柄になるなんて、思いもよらなかった。
でも大学の同期と結婚するなんて向こうの世界ではよくあることだし、そう珍しいこともないのかも。
いや、流石に二人とも娶るなんてあるわけないか。
「ソーニャさんだけ背が高かったから、これで追い付いて三人組って感じになったね」
「私、学園では言う程高くない」
「うっ、どうせ僕たちは万年背の順先頭だよ……」
女性しかいないはずの聖女学園の背の順で先頭なのだから、いかに小さいかがよく分かる。
「もとのかわいいのも好き」
「じゃあ今の僕は?」
「背伸びしてるのも可愛い」
背伸びしてるわけじゃないよ……。




