第95話 比較
試験は滞りなく終わった。
今日はテスト返し最終日。
昼休み、一年生の階には掲示板に群がる人達がいた。
「見て、いかれますか?」
「うーん……自分の結果は何となく分かるし……。でも他の人のは気になるかな」
人に教えることが増えたから、教えた人達の点数が上がったのか下がったのかは正直気になった。
下がっているのなら教え方を変えるなどしないといけないと思ったからだ。
掲示板の前に来ると、「例の人が来た」と言わんばかりに回りで見ていた人がこちらを見つめてはざわざわする。
1位 シエラ・シュライヒ 999点
2位 リリエラ・マクラレン 920点
3位 エルーシア 881点
4位 イザベラ・フォークナー 821点
5位 ノエル・ライマン 793点
良かった。
エルーちゃんは着実に上がっているみたいだ。
「相変わらず、崩れない点数ですね」
そう言って掲示板の前に現れたのはリリエラさんだ。
「でも、貴女にも弱点はあったんですね」
聖女史で一点落としたのは正直悔しい。
でもまさか誕生日を聞かれるとは思わなかったから仕方ない部分もある。
僕が3月20日で、サクラさんが7月15日なのは答えられたけど、流石に葵さんの誕生日まではしらないよ……。
「聖女史についてはリリエラさんに負けていますからね」
「他でボロ負けしている身としては、あまり素直に喜べませんけれど……。でも、前回よりも総合的に上がりましたし、貴女に1教科ですが上回ったのは大きな進歩だと思います。これもシエラさんのお陰ですね」
「単にリリエラさんがやり方を変えただけですから、私は何もしていませんよ」
「すぐそうやって謙遜するんですから……。今回ばかりは貴女に感謝しているんですから、素直に受け取ってくれないと悲しいです……」
「う……」
それを言われると弱る。
「二回連続で一位を取るどころか、ほぼ満点を取るなんて、本当に凄いことなんですよ!私達はシエラさんを見てしまっているから、感覚が麻痺してしまっているのかもしれませんが……」
「わ、私も尊敬しております!」
「エ、エルーちゃんまで……」
誉めて伸ばすタイプだったお祖母ちゃんみたいなことを言われると、なんだか照れてしまう。
「明日から夏休みとなりますが、くれぐれも聖女学園の生徒として、羽目をはずしすぎないようにっ!!」
ホームルームではマリエッタ先生が喝!とでも言うかのようにビシビシッと二回決めポーズを取ってから去る。
この光景は脳裏に焼き付けていつでも出せるようにしておこう。
学校が終わり、三人で寮に戻ると皆で勉強お疲れさま会となった。
リリエラさんも明日には寮を出るから、送別会でもある。
まあ送別会とはいえ別に学園では会えるんだけどね……。
「私達も二人とも上がったんですよ!」
「そうね。多分、順位でいえばセフィーが一番上がっているんじゃない?」
教えた人のなかで順位が上がっていないのはリリエラさんと僕だけだ。
けどリリエラさんは点数が跳ね上がっているみたいだから、実質点数が下がったのは僕くらいだ。
中でもセフィーは二桁程の人数を抜いていた。
「えへへ。私、Aクラスの最下位だったんですけど、上位まで来れたんです。本当にシエラ様のお陰です。ありがとうございます!」
「シェリーもSクラスの何人かを抜いていましたし、もしかしたら来年同じクラスになれるかもしれませんね」
「ふふ、そうなったら嬉しいですね」
親友に褒められる義娘達がとても尊い……。
「シエラさんには迷惑をかけてしまってすみませんでした。もしかしたらあの1点は、私のせいかもしれないですね……」
少し落ち込んでいたリリエラさん。
「そんなこと気にしていたのですか?珍しいですね……。単純に覚えていなかったことなので気にしなくても大丈夫ですよ」
「ちなみに、何を間違えたんだい?」
「葵様の誕生日ですね……」
まだこの世界に来たばかりの僕にはそれは難問だ。
会ったことも無いし……。
「シエラさんって、時々とんでもなく常識が抜けていることがありますよね……。葵様の誕生日が10月1日なのは、5年前まで毎年生誕祭があったので皆さん知っているものだと思っていましたが、知らない方もいるのですね」
「「あ……」」
口をぱくぱくする僕とリリエラさん以外の人達。
何言ってんだ僕!
そうじゃん、こっちじゃあサービス問題レベルの常識じゃん……!!
「す、すみません……常識がなくて……」
取り繕う上手い理由も出来ず、常識の無い烙印を自分で押す。
「あっ……すみません。以前は家庭環境が悪かったとお聞きしていたのを失念しておりました……。常識がないなんて私はなんて失礼なことを……」
「……そうだね。ここには家庭環境に問題を抱えてここにきている人もいるかもしれないから、そこは気になっても詮索しないようにしてあげることが大事なことだよ」
珍しくエレノア様が反論した。
エレノア様も心当たりがある人が過去にいたのだろうか……?
「も、申し訳ございません。親しき仲にも礼儀ありですね……」
「いえ……気にしていませんから……」
重ねていく僕の嘘はどんどん罪が深まっていくのだった……。




