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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第2章 雲蒸竜変
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第9話 行幸

 久しぶりによく寝た僕は暇をもて余していた。


 聖女院には娯楽はほとんどない。昨日はサクラさんと一緒に魔法を試していたが、今日はいないのでそれもできない。

 学園の入学試験は大丈夫らしいので、入ってから必要になるであろう聖女史の資料を読む以外は正直やることがない。


「エルーちゃんはなにか用事ある?」


「えっと……ソラ様の……お下着を……」


 そういえば替えの下着、女性用しかないんだった……。

真っ赤なエルーちゃん。完全に言わせちゃったよなぁ……申し訳ない。


「でも、流石にエルーちゃん一人に買いに行かせるのはちょっと…………そうだ!」


「?」


 可愛らしく首をかしげるエルーちゃん。


「僕も連れていってくれないかな?町の様子を見てみたいんだ――」




「わあっ!」


 ここが聖国の中心街、通称を聖女の通り道。御披露目式で聖女院のベランダから見えた景色と同じものだが、近くに来てみると違う印象がある。

 石畳でできた道路の脇に白、黒、オレンジなどの家やお店が並ぶ、古き良きヨーロッパのような風景がそこにはあった。


 通りには屋台や服飾店、カフェなどが並び、賑わう人混み。

一応フードをしているお陰か、周りの人が僕たちに気づくこともなかった。


「さて、目的を先に済ませちゃいましょう」


 エルーちゃんに服飾雑貨屋のおすすめを教えてもらい入ると、カランカランといい音が鳴った。


「いらっしゃい。あら、エルーちゃんじゃない。今日はお仕事はお休み?」


 白シャツにブラウンのオーバーオール姿の、店長と思われる豪快そうなおばさまが出迎えてくれた。

 穴場なのか時間帯の問題なのか、中にはおばさまともう一人の同じような格好の店員さん?しか見当たらなかった。


「こんにちは、マーサさん。い、いえ、えっと……」


「そこの嬢ちゃんは……あら?どこかで……」


 流石に店内でフードは迷惑だから取ろう。


「えっ……」


 さらっと黒髪を出すと、奥にいた店員さんが奥で手入れしていた花瓶を落とし、ぱりんと割れた。あっ……軽率だったか。


「突然驚かせてしまいましたね、すみませんでした」


「い、いえ……」


「お怪我はありませんか?」


 駆けつけると、怪我はないみたいだ。ひとまず良かった。


「大……聖女さま!?」


「名乗らずにすみません……カナデ・ソラです。まずは治しますね」


「何を……」


 手のひらに魔力を貯めてから「リカバー」と唱えると、割れた花瓶の破片が浮かび上がり繋がってゆき、元の花瓶の形に戻る。


「すごい……!あっ、ありがとうございます!」


 店員の女性の方が頭を下げる。


「上手く出来て良かった。改めてすみませんでした。店内を見て回っても?」


「もちろんです!」




「――むむむ……」

「ええと……」


 ここは男女兼用の下着、いわゆる「ブリーフ」が並んでいる。それをかぶりつくように二人でみていたら怪しすぎるよね……。

 

 何かにピンと来たマーサさんは口を開いた。


「もしかして、エルーちゃん、彼氏でも出来た?」


「へぇっ!?」


 その反応にニヤリとしたマーサさんは続けた。


「だって、そんな色気のないパンツを真剣に選んでいるから……。男にプレゼントするのかしらって」


 あながち間違いではないのが凄い。

しかしこのままだとエルーちゃんに嘘をつかせることになりかねない。


「わ、私の分です。エルーちゃんに選んでもらっているの」


「大聖女さまの……?」


 凍りついた空気。僕は取り繕うように続ける。


「……夜、パジャマのときに締まりの強いものだと寝苦しくて。あまり()()()()()()()()()()()()と思ったの」


 …………。


 ……どうだ?


「な」


 な?


「なんだい、聖女さまの分だったのかい!?ごめんね、詮索するようなことして」


「い、いえ。気になりますよね……」


 な、なんとかなった……。

それに、エルーちゃんにもそれとなくどういうのが欲しいか伝えられた。圧迫感のないやつなら最悪下まで見られてもバレない可能性が高いからだ。保険は多いに越したことはない。

 僕とエルーちゃん、それにマーサさんと店員さんも総出で探してくれた。

 僕はその中からいくつか色を選んで買うことにした。


「お代はいいよ。その代わり、娘のマリーが聖女さまのファンでね」


「あ、あのっ、握手とサインしてもらえませんかっ!」


 店員さんはマーサさんの娘さんだったみたいだ。

そっか……サインを求められることがあるんだ……。どうしよう。サインなんて生まれてこの方、全く考えたこともなかった。


「ここにサインをお願いしますっ!」


 ……何故か先ほど買ったブリーフと同じ種類のブリーフを渡してきた。

 えっ、これに書くの!?


「えへへ、実はこのブリーフ、私が作ったんです!」


 実際に使ってもらうことが嬉しいのだろう。嬉しそうにそう言われると流石にノーとは言えない。


 僕は借りたペンで『マリーさんへ』と書いてから、サインのかわりに漢字で名前を書いて渡した。


「ありがとうございます!一生の宝物にします!」


 複雑な気分だ……。


「私はこのお店のものが気に入ったので、また聖女院の者が買いに来るかもしれませんが、その時はよろしくお願いしますね」


 そう言いながらにっこりと微笑んで握手を交わした。




――カランカラン


 店を出ると、エルーちゃんがご機嫌だ。


「ソラ様、ありがとうございますっ!」


 露骨過ぎたかな……。


「……安全な下着の供給は大事なことだから……」


 エルーちゃん達にお願いする側としては毎回困って欲しくはない気持ちもあるけどね。


「ふふふっ」


 可愛らしい鼻歌を聞きながら、『そういえば、これでエルーちゃんが実際に彼氏ができて下着をプレゼントしたい時にも、気兼ねなくあの店で買えるんだ』とか、そんなしょうもないことを考えていた。

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