閑話253 見合い
【ララ・ゼクス・ハインリヒ視点】
「父も常々語っているが、私の父上は南部の民を魔法で救った英雄の一族である。その功績で他国の侯爵家の母上を娶ったのだ。私は第二子だが、兄も弟にも乗馬試験では勝り……」
緑溢れるガゼボの下、身振り手振りで多弁する男に付き合わされる女の図。
腐っても貴族、顔は悪くないかもしれないが、如何せん一方的に話しすぎる。
こういう男ほど器も小さく、妻に前に出られると怒鳴ったりするのだろう。
「お見合いの意図。あなた分かってる?」
「そりゃあ、簡単な話だ!王家は姫様に次期王を産むための家柄を求めておられる。だから私のような高貴な血筋が必要というわけだろう?」
「ぶっぶー、不正解」
人差し指を重ね合わせてバツの字を作る。
「なっ!?」
そもそもこんな自己中心的な男はお断りだけれど、この男は貴族としての回答だとしても考えが足りていない。
解説するのも面倒で、思わずどでかい溜め息をつく。
「モーレス、答えを」
「はい。お嬢様に嫁ぐということは、王家との繋がりを周囲に示す意味も大きいですが、そうしたいのであれば、他国のお相手の方がより魅力的で、わざわざ自国で選ぶメリットはありません。ですからあなた様は別のベクトルでご自身が『他国の貴族を娶るより優れていること』をご高説いただく必要がございました。先ほどあなた様が仰有っていたように、戦争もなく資源も充実した今、他国から娶るにはそれ相応の『御本人』の功績が必要です」
「そーそー。坊や、パパやママの自慢ナシで、自分の功績、言えるかな????」
「っ……!!」
できるわけがない。
彼はまだ何も成していないのだから。
学園の成績も良くなければ、領地を納めているわけでもない、ただのボンボンの御坊っちゃま。
「お見合いの場は、おうち自慢大会じゃないの。おわかり?」
「くっ、これだから脳筋の冒険者は……!」
「冒険者は聖女様も認めた職業。侮辱。お帰りいただいて」
「御意」
「お、おいやめろ!」
「ら~ら~ちゃん!」
「ソフィア姉……」
やっと訪れた平穏を堪能するべく『聖茶』に口をつけようとしたとき、美人陛下が後ろからちょっかいをかけてきた。
喜怒哀楽が麻痺していて助かったというべきか。
他の人だったら驚いて茶を溢しているところだ。
「またひどく振ったわねぇ」
「そう思うなら、もっとまともな縁談を纏めるべき」
「私が持ってきたモノじゃないわ。ゼクス家が勝手に纏めた縁談よ」
道理でマトモじゃないわけだ。
「いっそ、産まれてくる子達に引き継いだら良いのに。ぶーぶー」
「駄目よ。100年で交代する、そう言うしきたりよ。大掃除はしても、良心な王侯貴族を裏切る真似はできないわ」
「むぅむぅ……」
「この際学園とかでもいいわ。誰か気になる子とかいないの?」
「んーんー……いなかったわけじゃない。けどけど……」
「えっ、誰々!?もぉっ、そんな子がいるなら先に言いなさいよぉっ♪」
コイバナに花を咲かせる女王陛下、推せる。
「いいの?お家も功績も最強。聖女って言うんだけど……」
「あ、あの人は……!私の妹まで誑かして……!!」
一瞬で怒りに変わる。
喜怒哀楽激しくて疲れないのだろうか。
「第一、それじゃあ嫁ぐことになるじゃない!却下よ」
「むぅむぅ……」
とはいえ本気にはしていない。
少し気になる存在だというのは事実だが、あくまでもこの話題を終わらせるためのものでしかない。
「ソフィア陛下!至急お越しを!」
「何よ、可愛い妹との……」
「サンドラ陛下が産気づかれました!」
「っ、今いくわっ!!」
そしてその話も緊急事態で、流れてしまった。




