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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第941話 作物

「そもそもお前、どうして女装してるんだ?肌も綺麗だし、女になったのかと思ったぞ」

「うっ……それを話すと、色々あったんだよ……」


 僕は何度したかわからない身の内話をした。

 エリス様にここに連れてこられ、突然聖女という役職にされ、性別を隠して女学園に三年間も通わされた。


「なんつーか、俺よりも波乱万丈な人生歩んでるな……」

「ホントーにね……」

「失礼します。ソラ様、ハジメ様。お菓子をお持ちしました」


 タイミングのいいところでエルーちゃんがおやつを持ってきてくれる。

 今日はクッキーを焼いてくれたみたいだ。

 最近はお菓子作りを始めたらしく、コックさんに習って試行錯誤しているらしい。

 今度一緒にケーキでも作りたいな。


「ん~~、美味しい♪」

「紅茶飲む仕草といい、やけに上品だな……。もしかして、お嬢様学校だったのか?」


 頬に手を当てる仕草だけで上品と言われてしまっては、永年で培ってしまった高貴さ(ノービリティ)と言わざるを得ない。


「そうなんだよ!毎日沢山ごきげんようって言うし、先輩は『先輩』呼びじゃなくて『様』呼びなんだよ?男子トイレなんてほとんどないし、あっても他人の目がある時は入れないし、本当に大変だったんだからっ!」

「うへぇ、俺には無理だな……」


 愚痴なんて言いたくはなかったけど、やっとこさ言える相手ができてつい沢山言ってしまった。


「ふふ、やはりハジメ様にお越しくださり、私は正解だったと思います」

「「?」」


 頭の上にはてなが浮かび上がるふたりに、エルーちゃんはそれがおかしかったのかくすりと笑みを浮かべた。


「これほどまでに自然にお甘えになられているソラ様を見るのは初めてです」

「そうなのか?」

「べ、べつに甘えてるわけじゃ……」

「私に対してもここまでは崩してお話になられませんよ?」

「うっ……」


 確かに肉親という存在は、最も心を許した相手とも言い換えられるかもしれない。

 以前僕は家族というカーストのなかで底辺同士の傷の舐め合いをしているだけだと揶揄したが、こういった肯定的な価値観ができるエルーちゃんは、とても心の清らかな天使だ。


 ……まぁえっちなことに関してはまったく清らかではない魔人だけども。

 もはや別人格と言われても納得するレベルだ。


「でもそれって、エルーちゃん達が問答無用で女扱いや中性扱いしてくるからだよね?」

「そ、そこは、譲れませんので……」


 その間に色々なことがあった。

 魔王を倒し、各国で四天王を倒しながら問題を解決し、その元凶である邪神を倒しに行った。

 男性に告白されたなんてこともあったっけ。


「なんだって?星空(せいら)が、この世界に!?」

「うん。お姉ちゃんは私を追いかけてここに来たの。そして邪神を乗っ取ってこの世界を征服することを企んだ。それを阻止して姉を倒したんだけど、その時にエルーちゃんと私が死んだんだ」

「は?だ、だが、今こうして生きて……」

「人としてはもう、死んでるよ。エルーちゃんは姉に即死魔法で殺されて、私は倒したときの魔法の代償で人間の身体を保てなくなった。だから女神エリス様の神様の身体を貰って、今ここにいることができるの」


 僕はそれまで隠していた天使の羽と輪を表示させる。

 どうやら神体は神力を使って自由に自分の身体の構造や遺伝子を変えることができるらしい。

 だから獣人の姿に組み換えれば普通に獣人種になれるし、そのまま交尾すればハーフではなく100パーセント獣人の子を成せるらしい。

 遺伝子組み換えなんて、まるで農作物にでもなった気分だ。


 そして人種族になるには、過去の人種族であったときの僕の姿を思い出すだけでいい。

 エルーちゃんも僕に続いて羽をだしてくれた。


「そんな……」

「お父さん、大丈夫。泣かないで。私一人の命でたくさんの命が護れたんだよ。命は永遠になっちゃったけど、いつでも会えるから」

「…………」

「お父さん?」

「頑張ったな、天」


 そうやって撫でてくれるお父さんに、僕は涙が垂れてくるのを止めることはできなかった。

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