閑話251 実息子
【嶺肇視点】
ドアを抜けた先には何故か足の置き場がなく、俺は落ちる感覚を覚え、身を丸めていた。
あいにく俺は高所恐怖症なんだよ。
こんな臨死体験は身震いが止まらんからやめてくれ……。
などと思っていると、真っ白な空間にたどり着いた。
「ここは……」
光が眩しすぎるのか、それともこの空間が真っ白過ぎるのか。
真相は定かではなかったが、俺を引っ張るエリスさんの手すら背景の真っ白に同化して見えなくなった。
「おい、あんたエリス……さんだよな?」
もはや目に頼れなくなった俺は、とりあえず自分の手を引く存在がさっきと変わっていないかをいの一番に確認した。
流石にこれから上司になる存在に敬語は付けておいた方が無難かとは思ったが、あまりにも何も説明がないさまに、それをやめようかと悩んでいた。
まぁでもこの女についていくと決めたのは俺だ。
天との思い出話というエサに釣られて海外に行くことを決意したが、どのみち死んでも問題ない中年のおっさん。
言い換えれば、無敵の中年だ。
エリスさんは引っ張る手を離すことはなかったが、一言も喋らなかった。
やがてこれが美人局や人攫いを疑いはじめたとき、俺は突如この真っ白な空間から落ちる感覚に襲われた。
「ふげっ……」
だが実際に落ちたのは数センチのことで、まるで自分が落ちる夢から覚めたときのように声を荒げてしまった。
辺りを見回すとそこには真っ白なお城のような場所に、豪華なシャンデリア、そして赤い絨毯が敷かれていた。
「なんだここは……!?」
「剣と魔法の世界、アモルトエリスへようこそ。ここ、とってもいいところでしょ?」
「いや、まだ来て一秒でいいところかなんて分かるわけないだろ……。ここはなんなんだよ?」
「おかえりなさいませ、エリス様」
そこにいた皆が頭を垂れ、まるで俺が偉い人になったみたいだ。
赤い長髪のインテリイケメンメガネが代表して確認を取ってきた。
「そちらの御仁が?」
『ええ。ソラちゃんの実の父、カナデ・ハジメよ』
「い、いや、今は離婚したから姓は嶺だ」
俺の正体を知っているからなのか、みんなこちらを睨み付けるも、手は出してこない。
なんだか心のうちが読まれているかのようで不気味だった。
『そんな細かいことはどうでもいいのよ。それより、ついてきなさい』
「あ、おいっ!」
また説明を端折られ、手を引っ張られる。
『連れてきたわよっ!』
「おい、たいした説明もなしで連れてくるなんて、どういう了見だ。クライアントならガチギレ案件だぞ……結局ここはどこなんだ?」
「っ……!」
なんの説明もないまま部屋に連れてこられ、痺れを切らした俺が説明を求めるも、その回答よりも気になることができてしまった。
膝をついた女……否、男の子どもが誰であるか悟ってしまったからだ。
女装をしているとか、天使のコスプレをしているとか、そんなことで見分けがつかないほど耄碌してはいなかった。
「おと……う……さん……?」
まるで時が止まったかのように俺達は目を合わせて固まっていた。
「お前、天か……?」
俺が死ぬまでに会って謝りたかった相手がそこにいた。
「いやっ…………いやああああっっっ!!!!」




