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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話250 送別会

【嶺肇視点】

「「乾杯!」」




「意外でしたよ。肇さんが辞めるなんて……」

「あと一年居たら係長にはなっていたでしょうに……」


 仕事が定時で終わり、最寄りの駅前の居酒屋に集まる。

 今日は俺の送別会だった。


「あのなぁ、上になんて立ったら責任でプレスされてストレスマッハだぞ」

「肇さんがプレスされればいい感じに肉が削ぎ落とされて格好よくなるかもしれませんよ?」

「どちらかというと、肇さんはプレスするオーク側でしょうに」

「いったい何付けプレスなんだ……?」


 営業畑の連中が好き勝手に言いやがる。

 まぁでも奴らに助けられて今ここにいる俺としては、最後くらい好きに言わせてやりたい気持ちもある。


 俺が探偵を雇って金がなかったときに、昼飯を奢ってくれた。

 家に居場所がなかった時に、寮に泊まらせてくれた。

 貯金していた銀行口座から全額が引き落とされたことを知らされたとき、新たな口座を作り、また持ち株として預金に含めないことで家族の目から欺く術をいち早く教えてくれた。

 本当に何もかも、お世話になったんだ。


「肇さん結構細かいこと気にするタイプですもんね」

「お前らなぁ……言っていいことと悪いことがあるだろ。今は逆パワハラとかもあるんだぞ」

「もー、本当に寂しいんですって!嶺さんがいなくなったら、うちの課は大変なんですよぉー?」

「それは寂しいっていうんじゃなくて、戦力を欲しがってるだけだろ……」


 うちは大手でもなんでもない、弱小システム会社。

 とにかく受注を目指すため、主力商品であろうと顧客の要望によるカスタマイズを受け入れる、いわばスクラッチ開発がほとんどだ。

 だから俺なんかが教えられることも少ないが、ある程度のノウハウは伝えたつもりだ。


「肇、辞めたあとは何するか決めてんのか?」

「部長……」


 部長は俺がもっともお世話になった人だ。

 私事であったにも関わらず、親身になってアドバイスをくれた。


「海外で働く事になったんですよ」


 部長はほう、と顔を赤くしながら相槌を打つ。


「技術面でお前の右に出るやつは会社に居なかったからな。ま、お前が前を向けているんなら、それでいい」

「ありがとう、ございます……」


 みんな天のことを知っていて、それでいて聞かないでくれる。

 温かい場所だった。




 飲みの帰り、一人で電車にのって帰路に着く。

 天相手に暴力に訴えたことがあるから、俺は潰れるまで飲むことを辞めた。

 もう無理できるような歳でもないし、もう二度と天のような存在を作ってはいけなかった。


「ただいま……」


 返事がなくとも言ってしまうこの日本人症候群に名前を付けたいところだ。


「遅いわよ!待ってたんだから!」

「は……?」


 誰も居るはずのない独り暮らしの実家で、少し身に覚えのある甲高い声が何故かドアの奥から聞こえてくる。

 そのまま女は俺の手を掴んで引っ張り入れると、そこは実家ではなく――!?

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