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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第930話 発光

「こちらが後宮です」


 まるでベランダのあるリゾート地の宿泊施設だ。

 窓越しにも辺りを一望でき、古い西洋の街並みが遠くに見える。

 でも僕が目を付けたのはそこではなく――


「わあっ……!」


 可愛いくて大きなくまさんのベッドに目を奪われていた。


「世界にひとつしかない特注品でございます」

「そうなんだ……とっても可愛い……ふかふか……!」


 ベッドの上にもくま九郎があって、なんというかくま尽くしだ。

 思わず我を忘れて抱きしめていると、手前の部屋からバタバタと音がした。

 それが各部屋の戸を開ける音だと気付いたときには、僕はもう女の子達に囲まれてしまっていた。


「ソラ様、おかえりなさい」

「おかえり」


 久しくおかえりなさいなどと言われた記憶はなかった。

 記憶のなくなった僕に対しての言葉ではなかったものの、温かく迎えてくれたことに胸がいっぱいになり、思わずくま九郎を抱きしめる力が強くなってしまった。


「はじめまして、みなさん。すみません、どうやら記憶がなくなったみたいです」

「っ……!」


 僕が余計なことを言うと、みんなが悲しい顔をする。

 でも嘘をつくわけにもいかないので、これは僕が忘れたことが悪いのだろう。


 暫しの静寂を破ったのは、体格のいい女性だった。


「エレノア様から聞き及んでいる。私は橘涼花。ソラちゃんの専属親衛隊の隊長をしているよ」


 紺色の綺麗なポニーテールをした背の高いお姉さんが僕の左手を取ると、手の甲にキスをする。

 何故かは分からないけれど、「懐かしい」という感覚がした。

 まるで僕自身がこの人のことを思い出したいとでも思っているみたいだ。




 その場にいる皆さんの自己紹介を順に聞いた。

 聖女の子孫や王家のお姫様、貴族家のご令嬢などがほとんどで、要人が多すぎる気がする。

 マヤさんから「スケコマシの癖に、記憶までなくなるなんて質が悪い」と毒を突かれてしまった。


「あっ、あのぉっ……まだ私っ、自己紹介してないですっ!」


 不意に抱き締めたくま九郎の方から声がした。


「えっ、くま九郎が……喋った……!?」

「ぷっ……くくくっ」


 誰かに笑われたんだけど、本当に喋ってるよ!?

 これが異世界の七不思議……まさかぬいぐるみが喋るなんて。


「ちょっ、私はくまさんじゃありませんっ!」


 くま九郎の背後からてちてちと出てきたのは、くま九郎より小さな小さな少女だった。


「聖寮院西の国(セイクラッド)支部長っ、小人族唯一のソラ様の妻っ、マリエッタですっ!」

「……っ!!」

「わわわっ、ちょっとっ!こんな皆さんが見ているところでっ!?」


 小人族(僕が求めていた存在)……!!

 感極まってその愛おしい身体を、まるで雪を(すく)うようにやさしく抱き抱えると、マリエッタさんが突如発光しだしたのだ。


「えっ」

「「「っ……!?」」」

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