第927話 敗忘
「ソ、ソラ様……私をご存知ありませんか?」
「は、はい。ええと……」
こんなに可愛い子、見ていたら覚えていると思うんだけどな……。
「私はエルーシアと申します。同い年ですので、是非気軽にエルーとお呼びください」
「私はメルヴィナと申します」
「ええと、エルーさんと、メルヴィナさん?」
「もっと砕けた口調で構いません」
「私は是非メルヴィナお姉ちゃんと……!」
女性の知り合いなんて姉以外居なかったから、少しドキドキするな。
「エルーちゃんに、メルヴィナお姉ちゃん?」
「はいっ!」
「ふふ、以前のソラ様に少し近付きましたね」
無理をしているような、そんな笑みをこちらに向けてくる。
「僕は……死んだの?」
「ソラ様は大天使様になられたのです」
「だいてんし……?」
「はい。私やメルヴィナ様と一緒でございます」
思わず前のめりになってしまうエルーちゃん。
「ソラ様、こちら、お眠りになられる前のソラ様からのお手紙です」
僕、そんなことしたっけ?
身に覚えのない僕の記憶に、嫌な予感がした。
でも身に覚えのある僕の字体に、疑う余地はなかった。
拝啓、未来の僕へ
これを読んでいるということは、おそらく僕の記憶がなくなっているんだと思う。
記憶がなくなる前の僕と照らし合わせて、覚えているところを周りにいる人と共有した方がいい。
ここはEVER SAINT FANTASYのゲームの世界で、剣も魔法もある。
僕は何故か女扱いされて、最高権力者の大聖女になって人々の平和を守る役目を担っていた。
笑っちゃうよね、おかしいよね。
僕もそう思うけど、これがエリス様への恩返しなんだと思う。
ここに来る前は地球に住んでいて、家族や学校でいじめられていた。
女神エリス様のお陰でこの世界に転移してきて、僕は皆に沢山救われた。
弱っていた心を最近結婚した沢山の妻が支えてくれた。
僕の居場所を作ってくれたこの世界に恩返しがしたくて、ラスボスである邪神と戦い、姉と戦い、勝利した。
でも身体がボロボロになって、神の器にいれてもらうことになった。
僕は代償として記憶を失ったってことになる。
うーん、過去の僕、中々にクズでは?
女装して沢山の女の人を囲って……見た目いい感じに美化して書かれているけれど、なんというか臭いものに蓋をして見せているような、そんな感じ。
「ソラ様がクズなんてこと、絶対にありえません……!」
「ソラ様はエルーシア様のみをお選びになられました。むしろクズなのは、エルーシア様のご厚意で図々しくも妻の末席にいれていただいた私達の方でございます」
えっ、心が読めるんだ、二人は。
変なこと言わなくてよかった……。
話を共有したところ、僕は転移する前までの記憶はあるそうだ。
確かに姉や家族のことは覚えている。
そしてどうやら妻は16人もいるらしい。
どうしてそうなった……。




