第923話 婚姻
「ソラ様……」
「お義母様っ!!」
数時間後だというのに、婚約者が全員揃っていた。
「事情は聞いたわ。決意を決めたことも。私達には何も出来ることがないことも……」
「本当に、できることは何もないのですか?」
『私と天使達でやるから。あなた達にできることは祈ることだけよ』
エリス様は敢えて突き放すようにそう言う。
でも神力を持たない者にできることは、本当に祈ることだけだ。
『神力はこの世界で民が神に祈ることで蓄えられるの。だから、本当に祈ることが最善なのよ』
「それならさ、今からセインターで拡散希望っしょ!」
流石インフルエンサー冒険者、アヴリルさん。
いつの間にそんな速度で文字打つことを覚えたんだ……。
「こんなすがたでごめんなさい。これよりさきはどうなるか分からない。だからこんやくをかいしょうしてもかまいません」
「ふざけないで」
マヤさんが震えながらそう答える。
「勝手に救っておいて、その気もないくせに自分だけ先に居なくなろうとするなんて赦さないわ」
「たとえソラちが忘れても、それくらいで私達があきらめるわけないっしょ」
「たとえソラ様のお心が離れたとしてもっ、私達は諦めませんっ!」
「みなさん……」
僕の見た目が醜くなったら嫌われるのだと、勝手にそう思っていた。
やっぱりみんな、僕には勿体ない素敵な人達だ。
「たとえ永遠にお忘れになられたとしても、お預かりしている子種でお子を繋いで、後世に遺します」
「繋がりがなくなるのなら、作ればいい」
「しのぶちゃん、そーにゃさん……」
そう、僕が忘れてしまったら、みんなとの繋がりが何もなくなってしまう。
「そうだね、そうなるように、こんやくじゃなくてけっこんをしよう」
「「「っ……!」」」
僕はあらかじめ用意していた全員分の婚姻届を出してもらう。
「ぼくのぶんはかいたから、みんながよければ、じぶんのなまえをかいて」
エルーちゃんを失ったときから、僕は考えていた。
たとえ神のいたずらで引き離されようとも、僕は二度とエルーちゃんやみんなのことを手放したくはない。
僕からしてしまうと縛り付けるのは、命令になってしまうから今まで避けていたけれど、彼女達は証拠が欲しかったのだろう。
なにより僕がもう、手放したくないと思ってしまった。
「ぜんいんかけた?」
「全員分集めました」
「シルヴィもだよ?」
「っ、私は……」
「ほら、えりすさまも」
『っ……!』
結婚式はまだ挙げられないけれど、僕たちが繋がりを持つ証が欲しかった。
もし忘れてしまったら縛り付けるのは酷かもしれないが、せめてもの保険として、向こうからはいつでも離婚できるようにしておこう。
辛くなってまでみんなを縛り付けるつもりはない。
でも僕の方からは絶対に離婚はできないようにしておいた。
忘れた僕が何を言うか分からないから、これは僕に課せる鎖だ。
みんなが後宮に戻ったあと、一人のメイドさんが医務室に残った。
「あの、エリス様……」




