第922話 永遠
「私の両親に、どのようなご用件が?」
「えるーちゃん、まだあれからごりょうしんにあってないでしょう?」
「え、ええ。ですがそれは些事でございますから……」
「だめだよ、ちゃんとあうべきだし、きちんとじじょうをせつめいしなきゃ」
「ソラ様……」
平民とか貴族とか聖女とかそんなの関係ない。
「失礼します、お連れしました」
「ソラ様……!」
「そ、そのお姿は……!?」
「こんなすがたでごめんなさい。ほんとうならあたまをさげてあやまるべきなんですけど、いまはできなくて……」
「そ、そんな、ソラ様が……!」
ぽたりぽたりと大粒の涙を流すその姿も仕草も母親譲りなのだと気付きを得る。
「わたしのことはいいですから、えるーちゃん」
「はい……」
「エルー、君は……」
「えへへ、私、死んじゃいました……」
「死んじゃったって、エルーシア、あなた……」
僕は邪神との戦い、そしてエルーちゃんを守れなかったことを説明した。
「私は天使になってしまったけど、お父さんとお母さんの娘であることは変わらないから」
「むしろよく帰ってきてくれたよ」
「私達はね、あなたが幸せであればそれでいいのよ」
「うん、うん……!」
隣の芝は青いではないけれど、本当に素敵な家族だ。
「なにより、ぼくがえるーちゃんをいちばんにあいしていなければ、えるーちゃんがしぬことはなかった。ですから、あなたたちのむすめさんをまもれなくて、ほんとうにすみませんでした」
たとえ天使として生き返ったとしても、エルーちゃんを死なせてしまったことに後悔が残っていた。
エルーちゃんは覚悟していたのだろうけど、いわば暴走した僕の心の安寧のために生き返ったようなものだ。
天使エルリアの転生した魂のお陰で記憶は消えなかったのが幸いだが、エルーちゃんからすると永遠の寿命を得てしまった。
僕の心が強ければ、こんな命をもてあそぶようなことをしなくてよかったのかもしれない。
「あやまってすむことではないかもしれませんが……」
「いいえ、むしろエルーシアがソラ様のお役に立てたこと、誇りに思います」
「エルーシアもソラ様に謝っていただきたいのではないと思いますよ」
謝罪ではなく、感謝をしてほしいと、そう言うのだ。
「みんな、やさしすぎだよ。もっとぼくにおこってよ……」
涙がぽろぽろと落ちていく。
それが恥ずかしくて目元を擦ると、まるで砂を崩すかのようにぼろぼろと皮膚が崩れていく。
「いけません、旦那様!!」
「ご、ごめん、つい……」
どうやら分解されている皮膚を無理やりくっつけているため、強く押すだけでその均衡が保てなくなるらしい。
これでは痒くて身体をかくこともできない。
「私は無事でしたのに、どうしてソラ様ばかり……」
「えるーちゃん、つぎはこんやくしゃのみなさんをよんでくれますか?」




