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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話247 馬鹿男

【ルージュ・テーラー視点】

「メーア、報告をお願い」

「東地区に疫病が増大している模様です。魔王襲来からもう二週間が経過していますが……どうなさいますか?」


 疫病に感染した場合、きちんと栄養を取ったとしてもおよそ一ヶ月以内に人は死ぬ。

 邪神が転移するものとして四天王の魔族だけに注目がいきがちではあるものの、実際には魔境の魔物も各国に無差別に転移している。

 そしてその魔物の中にはごく稀に邪神の身体から放たれる疫病を身体にくっつけて転移してくる者がいる。

 そうしてやってきた疫病がこうして領地に甚大な被害を及ぼす。

 対処法は高位の光魔法使いに浄化してもらうしかない。


「物資の供給をやめては駄目。民を引き続き風魔法と気球による空輸で送るように。私たちは聖女様がいらっしゃるその時まで民の希望になるのが務めだわ」


 魔族と魔王の襲撃が続く中、学園は休校。

 理由としては学園が聖国の民達の避難所のひとつになっているから。

 学園の多目的ホールとソラお義兄さまが各国に作られた聖寮院はその施設そのものがひとつの大きなクラフト魔道具になっており、外部からのどんな魔法も通用しない。

 だから、そこが緊急時の避難シェルター代わりになる。

 一般開放中の学園ではセキュリティが担保できないので、休校となる。


 私達貴族は自分たちの領邸に避難し護衛を雇う資金もあるけれど、民にはない。

 だから限られた人数しか収容できない学園の多目的ホールは民が使い、貴族達は実家に帰り領地の民達を守ることが義務。


「お嬢様、こうなればソラ様の義妹であることを使って、聖女様方に緊急のお手紙をお書きになるのは……」

「メーア、口を慎みなさい」


 申請は既に行っている。

 聖女様の前では民も貴族も平等に下。


「聖女様が我々に位階を付けるのは自由だけれど、私たちがそれを盾に胡座をかいたり命乞いをしたりするために使うのは決してあってはならないわ」

「ですが、このままでは……」


 確かにこのままでは東部の民が聖女様の到着に間に合わない。

 私には現地に行くことも許されず、ただ物資を送って延命することしか出来ない。


「失礼するっす!」

「ヘレン、これで三度目よ。返事をなしに入る、言葉遣いを直さない。いい加減、お嬢様の品格を下げる行為であるということを自覚なさい!」

「あ、あっしは諜報なんでそういうのは得意じゃないんすよ……」

「メーア。怒るのは構わないけれど、怒鳴るのは主の頭痛の原因を作るつもりでないのならやめなさい」

「す、すみませんでした」


 べーっと舌を出すヘレン。

 私と真反対だからこそ、見ていて少し羨ましくなる時もある。


「報告があるんでしょう?」

「それを邪魔したのはメーアっすよ」

「っ……」

「いいから、先に報告して頂戴」

「あの馬鹿男からの手紙っす」

「ヘレン、腐っても婚約者ですよ」


 まあ私もそう思っているけれど、本人は私の代わりに公爵家をまとめる存在であると勘違いしているようなのよね。

 そんな事実はないのだけれど。


「…………」


 受け取った手紙を読むと、思わず絶句してしまいそうになるのを抑えて、目頭を抑えてはぁとため息をついた。

 これがヘレンが妄想で書いた夢物語だったら、どんなによかったことか。


「お嬢様、ため息をつくと幸せが逃げるっすよ」

「もう逃げているようなものよ」

「その幸せは逃げていい幸せかと思いますが、詳細をお伺いしても?」

「……『また使用人の男と一緒に居たらしいな。お前の言動は筒抜けだぞ。お前は女として格上である伯爵家の俺を立てるに相応しくない。そんなお前のために、淑女の鏡のような女を用意したから仲良くしろ』ですって」


 この戦時中に、一体何を考えているのだろうか、あの男は。


「なっ……!?堂々と浮気していると申しているようなものではありませんか!」

「男って、もう排除したっすよね?情報古すぎっす」


 そう、使用人の執事や料理人と密会しているなどと婚約者が言いふらすから、わざわざ私の居住区から男性の使用人を配置換えを行ったというのに、これ以上男性を減らすことなどもできない。

 その上当の本人はメイドを囲っているなんて噂もある上、堂々と浮気しているときた。

 これがため息をつかないでいられるかしら?


「テーラー家のことではないわ。きっとシュライヒ公爵家の使用人を調べたのでしょうね」

「そんなの、お嬢様の管轄外のことではございませんか……!!」

「どうせ例の子爵令嬢の入れ知恵でしょうね。あれで淑女だなんて聞いて呆れますわ……」


 他人の男に手を出して……アバズレの間違いだろう。


「お嬢様、流石に公爵様にご報告いたしましょう?」

「…………」


 伯父様は私に「自分より高位の者を嗜め仲良くなる術を身に付けるべき」だとして、この婚約を受け入れた経緯があるが、それを彼女達には伝えていなかった。

 まだ十数回くらいしか会っていないような殿方なのだけれど、勤勉なだけで嫌われる相手に、私はどうやってアプローチすればよかったのかしら?

 まさか馬鹿になれとでも言うのだろうか。


「これは私が自分で解決すべきことだわ。次期公爵として、ね」

「お嬢様は頼まれていないことをして嫌われるタイプじゃないっすか?」

「……ヘレン、あなたは雇ったばかりで、まだメーアほど仲良くはないわよね?」

「まあ、来たばかりの女ではあるっすけど。まさかこんな口調だからって、男だって疑われているっすか!?」

「違うわ。ヘレン、もしかするとあなたとあなたの家族を捕えて地下に幽閉しなくてはいけないかもしれないわね」

「へっ!?」

「さっきは報告を先にして欲しかったから目を瞑ったけれど、私に対するその態度、今の立場からすると私を怒らせてやめさせようとしているようにも見えるわ。まるで今私が敵対している勢力のもとへ戻るため、わざとやめる口実を作るみたいにね……」


 そう、例えば子爵令嬢のスパイだった、とか。


「あ、あのアバズレの下っぱなんて死んでもごめんっすよ!」

「ほら、そういうところ」

「うっ……」


 杖を構えてずいっと近づく。

 拘束するつもりはないけれど、少し怖いものを知った方がいい。

 彼女は伯父様から紹介してもらった諜報で、家族構成も裏も取れている。


「お、お嬢様の詰め方は怖すぎるっすよ……!」

「なら立ち回り方をよく考えなさい。あなたはたとえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、自分が『今』仲良くすべき相手は誰かを常に考えておくべきよ」

「そ、そんなことないっすけどね!!」


 まあ、そんなことだろうとは思っていた。

 伯父様も心配性なお方ね。


「で、幽閉されたいの?報告できなくなると、伯父様、困るのではなくて?」

「……口調、ナオシマス……」

「よろしい♪」


 正しい言葉遣いは貴族家で生きていく上できっと武器になる。

 彼女はまだ若いのだし、今から使えるようにしておくのも私の教え方次第か。


「失礼します、()()()()()

「えっ……?」


 この屋敷にはお嬢様と呼ぶ者しかいないはず。

 つまり、それは……。


「まあっ、エルーシアお姉さまっ!!おかえりなさいませ!」

「ご無沙汰しております。私の分はシュライヒ領が最後でしたので、ついでにご報告をと思いまして……」

「ご報告って……お姉さま、そのお身体は……?」


 天使の羽に、水色の御髪、そして天使の輪。

 どうみても天使様であらせられる。


「ふふ、少しドジをして死んでしまいまして……」

「えっ……?」


 死ぬことは、少しでもなければドジでもない。

 いったい、最前線はどれほど大変だったのでしょう。


「運良くエリス様にお救いいただいたのです。それより、シュライヒ領の浄化は私が行いましたからもう大丈夫ですよ」

「「ええっ!?」」


 私の悩みのひとつが、一瞬で解決してしまった。

 やはりお姉さま方はたった2つ先輩であらせられるだけなのに、私達の遥かに先にいらっしゃる。


「それよりルージュ様、お顔が悪いですよ」


 エルーシアお姉さまが私の手を取ると、苛立ちがふっと軽くなる。


「お悩みがあるようでしたら、いつでも私やソラ様がお聞きしますからね」


 そうやさしく微笑みかけてくださるエルーシアお姉さまは、まるで聖母のように慈しみにあふれていた。

 ああ、ソラお義兄さまからお心を頂くのも納得がいくものね。


「そういえば、ソラお姉さまや、涼花お姉さまは……?」


 そう訊ねるとエルーシアお姉さまは少し陰をおとした。


「そのことで、後で()()があると思います」

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