閑話245 水天使
【エルーシア視点】
『『――終焉の緣――』』
ソラ様に楔が撃ち込まれたとき、私の視界が揺らぎました。
『――さようなら、メフィスト。そしてさようなら、エルーシア――』
魔境に来る条件として、絶対に死なないことをソラ様と約束しました。
それでも最後まで私が連れ添うことを頑なに拒否しておられたのは、きっとこの未来が来ることが分かっておられたのでしょう。
ああ、私はやはりソラ様との約束を守れなかったのですね……。
元々私は疫病によって一度死んだ身、この命をソラ様を助けるために使うことになんの躊躇もございません。
ですが私が死ねばソラ様が後を追おうとなさるやもしれません。
私がしたことは、それほどに罪深いことなのです。
――やがて真っ白な空間が現れると、私たちの女神様のご尊顔が現れました。
「女神様、またお会いできましたね」
<死んで会っていたら世話ないわ。今のあなた、ただのアホよ?>
一緒に行ったら死ぬからとソラ様に止められ、それでも行ったら案の定死んだ。
それを馬鹿と形容せずしてなんとするのでしょうか。
「ですが、エリス様は私が死ぬのを分かっていらしたのでは?」
<……はぁ、二人して私の心を読んで、ほんと嫌んなっちゃうわ>
邪神となったソラ様のお姉様が放った即死魔法は、おそらく私が遠く離れたところに居たとしても同じことが起きていました。
ソラ様が邪神と戦う以上、どのみち避けては通れなかったのです。
そしてソラ様の戦力とお知恵がなければ私たちは負けていた。
ですから私が死ぬのは、必然だったわけです。
だからこそエリス様は私たちが出掛ける前にわざわざこのネックレスを私に付けさせた。
ソラ様のお心が壊れないように――
<このペンダント『覚醒の雫』にはあなたの『水の天使』としての器に必要な神の身体を作る媒体が入っているわ。エルリアから転生したあなたの魂でなければこの奇跡は使えない。でもこれをしてしまえば、もう金輪際死ぬことは出来なくなるわよ>
「構いません。それでソラ様のお心が満たされるのなら――」
一度目の生はサクラ様に助けられ、二度目の生はソラ様に助けられ、そして今、エリス様に助けられています。
私はなんと幸せ者なのでしょうか。
ですからたとえその幸せが借金になるのだとしても、何千、何万年とかけて返していこうと思っています。
<これはババアのお節介だけど、大切な存在が死んでいくのを見守るのはとっても辛いわよ>
「新しい大切を作っていけばよろしいのです。幸い人というのは命を繋いでいく生き物なのですから」
主神にはぁ、と大きなため息をつかせてしまいました。
<いいこと?生き返ったら私を降ろしてソラ君と合体しなさい。それがあの状況のソラ君を救う、唯一の方法よ――>




