第916話 団結
神秘的な光景だった。
天使のように飛び回るエルーちゃんが水を纏い踊ると、次第にその水色の髪にエリス様の白が混じっていく。
これが、僕を暗闇から救ってくれた天使の姿か。
<『ソラ様、御手を――』>
シルヴィとエリス様だとエリス様に言葉遣いが寄るんだけど、エリス様とエルーちゃんだとエルーちゃんに寄るんだ。
どういう基準でそうなっているんだろう?
<口調に対する意志の強さですよ>
<どういうこと?>
<シルヴィア様もハープ様もご自身の口調には人一倍敏感でございます。神族も嘗められてはいけませんから、そのように振る舞うことが普通です。しかしソラ様は御自分の口調を変えることに嫌悪感が他の人に比べてほとんどありません>
エルーちゃんはマシュマロのように柔らかい手を僕の手の上にそっと添えると、念話でそう教えてくれた。
何せ女装しただけで口調が変わってしまうのだ。
これも姉の調教の弊害ではあるものの、どうやら自分の口調が変わってしまうことが当たり前になっていたようだ。
対してエルーちゃんはどれだけ年下だろうと貴族以上の身分の相手には必ず様を付けるし、敬語に至ってはもっと徹底していて、両親や幼馴染み以外に砕けたしゃべり方をしたことがない。
僕もエルーちゃんみたいに意志を持てば、この女の子口調はなんとかなるのかな?
<ソラ様はそのままでいいです>
<そうだそうだ!>
いや、なんでよ。
<ソラ様、それより天使になった私は同時にソラ様の眷属になりました。ですから、私を――>
<でも、僕はエルーちゃんと一緒にはなれるかもしれないけど、エリス様を降ろすことは……>
<大丈夫です。そのための、シルヴィア様でございますから――>
もう可愛いだけのエルーちゃんじゃない。
今の彼女は全てを見通すような冷静さと聡明さを兼ね備えている。
まるで一足先に大人になってしまったような、そんな感覚があった。
姉に引導を渡すための最後の一押しをするには、圧倒的な力が必要だ。
でも、その力は僕一人ではきっと得られなかった。
はじめは自分を犠牲にして、世界を護るつもりだった。
他人に頼れば巻き込んでしまい、足並みを揃えなければいけなくなるかもしれない。
独りで対処した方が責任も自分だけで済むし、足並みすら揃えなくて済む。
それでいいと思ってた。
でも独りでは、コンディションが悪いときに代わってくれる誰かがいないことに気付いた。
つまづいたときに支えてくれる誰かがいないことに気付いた。
そんな憐れな僕に、みんなは『独り』以外の戦い方を教えてくれた。
「『『――眷属憑依――』』」
名前:奏天
種族:人種族 性別:女
ジョブ:聖女 LV.490/100(+390)
体力:3855/999(+3350)魔力:3149/999(+3350)
攻撃:999(+3950)
防御:999(+3050)
知力:999(+3950)
魔防:999(+3050)
器用:999(+3050)
俊敏:999(+3050)
スキル
全属性魔法[神]・鑑定・癒快・アイテムボックス
加護
女神エリスの加護
状態
降神憑依 (エリス)
眷属憑依 (シルヴィア・エルーシア・教皇龍)
そして今、僕は皆と力を合わせて戦っていた。
「『『『<さあ、決着を付けよう。お姉ちゃん――>』』』」




