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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第12章 韋編三絶
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第91話 暗記

 テスト前は午前中授業となる。

 年間の考査の合計でクラスが落ちることもあるから、テストを優先してもらうための措置だろう。


 と思っていたら、それは表向きの理由だったらしい。


「なんでも第34代の夏目(なつめ)(なぎさ)様が試験前になってからまとめて勉強するタイプだったみたいで、渚様が生徒会長のときにそういう同士を助けたいがために権限を使ってそのようにしたと先輩からお聞きしました」


 帰りの支度をしている時、イザベラさんがそう言った。

 どうやら過去にそういう聖女がいたらしく、わざわざ会長権限を使ってルールを変えたらしい。


 先生方は聖女がそんな理由で変えたなどという歴史を遺したくはないようで、テストを優先させるようにと()()()()()()()()()そうさせたという形を取っている。


 だが、実際はそうではないということが、当時の生徒から後輩に代々話が受け継がれてしまっている。

 面白い話なので噂は瞬く間に広がり、結局聖女学園の生徒は皆知ってしまっているらしい。


 というか夏目渚さんって、確か先輩に様を付け始めたという聖女だったよね……?

 なんだか一気に人間味が増した気がする……。

 聖女というだけでいい評判だけでなく、こういった情けないような話も後世に伝わってしまうというのは、なんというか恐ろしい。

 僕も気を引き締めないとと思うのだった……。




「ふふ、友人達とみんなで帰るのは、楽しいですね」


 一年生の朱雀寮生のみんなで寮に戻る道中、リリエラさんがそう話す。


「私はいつも馬車で一人ですから、こういうのはとても新鮮です」


 お嬢様だからこその新鮮さなのだろう。


 でも僕もこちらの世界に来てからみんなで帰る楽しみを知ったからね……。

 そういう意味では、同じかもしれない。




 今日はみんなでロビーで数学の勉強会だ。

 とはいえ普段からエルーちゃんやシェリー、セフィー、ソーニャさんにはよく勉強で困ったら教えていた。

 こうしてみんなで集まって勉強することは滅多にないけど、僕としては個別にやっていたことの延長線上だ。


 僕だけ聖女史の教科書を開き、それ以外の皆は数学の問題を解いていた。




「シエラ様、ここなのですが……ちょっと自信なくて……」


 相変わらず数学は苦手だと言うエルーちゃんだけど、今手を付けているのは応用問題。


「ここにこれを入れて変形するところまでは分かるのですが……」


 応用問題は飛ばすくらいに苦手としていたエルーちゃんも大分成長しており、応用問題は三問中二問くらいの割合で解けるようになっていた。


「この式をぼんやりと遠くから眺めてみたらどう?」

「あっ!置き換えですね!」


 気付くのも早くなってるし、大分得意になってきていると思う。


「す、凄いですね……。これが英才教育……。私も負けていられません!」


 そんな大層なもんじゃないと思うけど……。

 リリエラさんも気合いをいれて問題に向かう。




「おか……シエラ様、ここを教えて欲しいのですが……」


 セフィー、今お義母様って言おうとしたよね……?

 危なすぎるよ……。


「ここは……ああ、そこの計算をもう一度見直してみて」

「……あっ!」


 セフィーは計算ミスしていたことに気付いて直す。


「えへへ、恥ずかしいですね……」

「でも、そこまでできているから、確実に成長していると思うよ」

「へへ、嬉しいです……」

「セフィー、なんだか変わりましたか?」

「……?」

「以前の貴女は、あまり勉強は好きではなかったと思っていたのですが、今はなんだか楽しく勉強をするようになったと思いまして……」


 リリエラさんの問いに、少し考えてセフィーが答える。


「なんだかこちらに来てから、勉強が少しだけ楽しくなったんです。シエラ様にも誉めていただけますし……」


 親バカのように誉めちぎっていたことが活きているのは少し恥ずかしいが、嬉しい。




 しばらくして、意を決したようにリリエラさんが質問を投げ掛ける。


「シエラさん、私は試験で凡ミスや時間が足りなくなることが多いのですが、シエラさんはどのようにしているのでしょうか?」


 突然来たリリエラさんからの難しい質問に、少し頭を悩ませる。


「ええと……参考になるかは分かりませんけど私の場合は特殊で、先に暗記してしまいましたから……。時間が余ってしまうので見直すという形でしょうか……」

「私は、その勉強のしかたはあまり好きじゃないんですよね……。なんだか、その場凌ぎで覚えてしまっているようで、知識として身に付いていないといいますか……」


 確かに言い分はわかる。

 なんだか勉強に対して真摯に向き合っていないような気はするよね……。


「その気持ちはわかりますけど、エレノア様のような天才でもない限り、一度に覚えていられることには限りがありますから。それに今は覚えているだけのことが、学年が上がってもっと深掘りした内容を学んでいくうちに、やっとわかるようになることがあったりするんですよね。もしかしたら学生のうちに分からなくても、大人になってやっと本当の意味や有用性に気付くことがあるかもしれません」


 小学生の頃に九九を覚えて、暗算ができることの有用性をもう少し大人になってから気付くことがあるように、後で気付くことも往々にしてある。


「ですが……そもそもその言葉自体を忘れてしまっていたら、そのことに気付くこともできないんです……」


 単語すら忘れてしまえば、その意味を後で調べることもできない。

 覚えてさえいれば、いつか思い出したときに自分のためになるかもしれない。

 まあ覚えていても一生為にならない言葉もあるかもしれないけど、その引き出しを多くしておくこと自体は悪いことではないと思う。


「確かに、そう言われるとそうですね……」


「例えば数学でしたら試験では公式は暗記したものに代入するという方式で覚えておき、試験に関係のない公式の証明自体はじっくりと時間を掛けて出きれば良いという風に、事象を切り分ければいいと思うんです」

「なるほど……。そういう考え方もあるのですね。私もそれに倣ってみようと思います。やっぱりシエラさんは、私にないものを与えてくれますね!」


 親友からの株は上がる一方で、単にゲームの知識で暗記しているズルをしている手前、素直に喜べない僕だった。

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