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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第912話 栄養

 ――それは、ある日のこと。


「涼花さん、今日も行くの?」

「ああ。ソラちゃんも行くかい?」

「うんっ!」


 元気にそう返事をしてベッドから跳ね起きをすると、その勢いがあまったので涼花さんに飛び付く形になってしまった。


「おっと、危ない。淑女らしくね、お姫様」


 ぽふんと柔らかいものに受け止められる。

 目を細めて優しく諭しながら頭をなでなでしてくる仕草。

 どうやら一連の動作のどこかに涼花さん的ツボポイントがあったらしい。

 涼花さんは僕に可愛さを見出だすと目を細めて愛おしそうにこちらを見つめてくる。

 それがあった日には、夜OKのサインでもある。


姫扱い(ひめあふはい)しないでください(ひないへふははい)……」


 胸に埋もれたまま抱きついて喋ると低く艶やかな声が漏れてくるものだから、まだ昼過ぎだというのにイケナイ気持ちになってしまう。


「全く、本当に可愛い子だ。今夜は期待していいよ」


 確か先日西の国(セイクラッド)から商家の方々が来て水着を買っていたと思うけど、まさか僕が以前話題に出した競泳水着を……いや、それはないか。


「いってらっしゃいませ」

「何言ってんの、エルーちゃんも行くよ」

「ですが、これからデートでは……」

「エルー君が遠慮するのはナシだって言った筈だよ」

「それに行くのはお墓だよ」

「あっ……」




 お墓参りを終えた後、三人で手を繋ぎながら王城の裏手を歩く。


「らん、らん、らん♪」

「ご機嫌だね」

「三人でお出かけするのってあんまりなかったなって思って」


 普通の感覚なら三人でデートなんて相変わらず最低の男だが、最低なのは僕だけでいい。

 初めはエルーちゃんに言われて仕方なくなんて思っていたけれど、今僕の寂しさが一瞬で満たされているのはこうして沢山の愛に囲まれているからに他ならない。


「涼花さんはさ、全部が終わったら……何がしたい?」

「ふむ、そうだね……。月並みかもしれないが、婚約から一歩先には行きたいかな。私もそろそろ20だからね。この世界では学園を卒業してから結婚が普通だから、もう私は売れ残りだよ」


 今もなお胸も身長も伸びてる成長真っ盛りなレディが売れ残りだなんてあり得ない話だ。

 その伸び盛り、僕にも少し分けて欲しい……。


「結婚関連は帰ってきたらきちんとするつもりですから、それ以外にしましょうよ」

「ルークさんにもそろそろ休みを取れと言われているし……長期休暇を取って西の国のベビーグッズ巡りには行ってみたいな」


 追い込み期間ではあるものの、隊長が休まないと下の人も休めないからだろうね。

 そういえば最近ベビーグッズの特集雑誌を涼花さんの部屋でよく見る。

 遠回しに妊活したいって言われているような気もする……。


「エルー君が先に産むだろうし、婚約者は沢山いるから子も沢山だろう?買う機会は沢山あるはずだ」

「もう、それって涼花さんのためになってないじゃないですか……」

「そんなことないさ。君のために自分を磨くことと、可愛いものを見ることが私の生き甲斐だからね」


 まぁ確かにベビーグッズは可愛いものが多いし、気持ちはすごくよく分かる。

 みんなで買いに行くのもいいかもしれない。


「エルーちゃんは?」

「そうですね、これを機に料理と栄養のお勉強をしてみたいですね。その、ソラ様や皆様には長生きしていただきたいですし、何より()()()()()()も知っておいて損はないかなと……」

「健康か。確かに筋肉をつけるにも、適切な食事が関係していると母上から聞いたことがある。私もきちんと学びたくなってきたな」


 この世界で栄養について学ぶのは王族や一部貴族、聖女に仕えるコックさんだけで、あまり一般的ではない。

 でも彼女は歴代聖女の専属侍女の日記をよく読んでいるから、栄養と健康についての関連性を突き止めたのかもしれない。


「気が早すぎだよ、二人とも……」

「準備は早いに越したことはありませんよ」

「そうさ。私達はこれから産まれてくる子達も含め、全員が幸せにならなければならないからね」


 でもこの二人のそういった周りに気を配る優しさに惚れたところもあるから、あまり強くは言えない僕だった――

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