閑話244 依り代
【ホークス視点】
聖女院にお世話になっている間、ブルーム様にはお茶会と称してこちらでの生活のことを色々と教えてくださいました。
ソラ様も認めてくださいましたが、恐れ多くも私達はソラ様の家族になる存在。
そのソラ様が聖女院へ還御なされた時、私達が死んでいればお心を病まれてしまうかもしれないとのこと。
ですがそれは建前で、おそらくエルーのためでもあるのだと思います。
慈愛の聖女様は私達の娘を世界一の娘にしてくださっただけでなく、こういった気配りもできる御人。
ああ、私の娘は素晴らしい人に嫁いだものです。
「聖女様方におかれましては……」
「ああ、そういうのはいいわ。ブルームさんはともかく、あなた達は平民だもの、本来身に付ける必要はないもの。あと真桜はついてきただけだから気にしないで」
「そだよー」
「こら、きちんと挨拶なさい」
「『きまぐれの聖女』、柚季真桜よ。貴方達に女神の祝福があらんことを――」
まだ御年一年と少しですが、これほどまでに言葉巧みに操られる姿は、利発的だけでは到底説明がつきません。
聖女様はそれほどまでに特別な方々なのでしょう。
「……気持ち悪いわよ、急にどうしたの?」
「私にも仮初の姿というものが必要と悟ったのよ。ほら、女は秘密が多い方が魅力的って言うでしょう?」
……これはエルーも昔女友達と遊んでいた、「おままごと」の延長なのでしょうか?
「なに考えてるかよく分からないけれど、まぁいいわ。三人には娘が魔境の最前線のさらに邪神討伐部隊に参加してもらっているから、できるだけ最新のニュースを伝えておきたかったのよ」
「息子も、で御座いますよ。サクラ様」
「あら?気が早いのね。まだ婚約じゃなかったかしら?」
「ソラ様からのご公認で御座いますから」
「ワシゃ認めんぞ!ソラちゃんはみんなのアイドルなんや!」
真桜様がイヤイヤと駄々をおこねになります。
「こういう野次馬に難癖つけられないためにも、外堀はきちんと埋めないとダメよ?私の時だって、婚姻届にアレンの親である孤児院の先生のサインを事前に取っておいて、あとはアレンのサインを待つだけだったもの」
「おお、怖……」
「真桜、そのお陰で真桜が産まれたんだから、あなたがそれを言う権利はないわよ」
「もし成長してサイコパス真桜ちゃんになっちゃったら、ママのせいだよ!!」
御二人は漫才をやり終えたかのように満足そうな表情でこちらに御視線を向けられ、私達に点数を御求めになっているようでした。
私はその美しくもにこやかな圧に堪えられず、思わず話を逸らしてしまいました。
「ええと……最新の……ニュースでございますか?」
「ええ。女神エリスが力と依り代を取り戻したわ。さっきエリスの声が聞こえてきたから、確実よ」
「「なんと……!?」」
「つまり、邪神との戦いに進展が……」
「もうすぐ、ソラちゃん達が帰ってくるかもしれないわ――」
とても嬉しい朗報に、私は思わず目頭が熱くなってきてしまいました。




