閑話243 ご来訪
【テレシア視点】
「戦争が始まってからこちらにお世話になっているけれど、やっぱりまだ落ち着かないですね……」
「テレシア様、お気持ちお察しします」
「意外です。ブルーム様はこういった場に慣れていらっしゃると思っておりましたが……」
「確かに一時は葵とともにこちらにおりましたが、私はしがない花屋で御座いますから。本来であれば聖女院と仲違いを起こした葵と私はいわば駆け落ちした無縁者。ですがこうして外に危険なことがあれば家族共々守ってくださるというのは、大聖女様が『慈愛の聖女様』と呼ばれる所以なのかもしれませんね」
三年の時を経て再来した魔王を聖女様方が討伐なされてから一週間が経ちました。
今回は三年前と違い魔王と魔王四天王がそれぞれ二個体ずつ聖国や各地に舞い降りたのです。
三年前はサクラ様が魔王によって重症を負いましたが、今回は倍に増えても全員無傷。
その上四天王ですら誰一人として怪我させることはなかったそうです。
それはひとえにお三方の聖女様のお陰で御座いますが、聖女院にいらっしゃる方々はしきりに「大聖女様のお陰だ」と仰っておりました。
それもそのはず、毎回魔王が襲撃することは予知できないはずですのに、ソラ様はピタリと当ててしまわれたのです。
その上、その日に必ず襲撃してくるからと、御自身がご参加なさらずとも絶対に負けない布陣を整えていらしたといいます。
私の娘もあの御方に身も心も変えられて、あの名門聖女学園にて平民で一番高い、ほぼ満点に近い点数を取ったと言われています。
まさに全知全能。
私の娘は、凄い御方のところへ嫁いでしまいました。
邪神は魔物を遠隔から直接各地へ転移するとのことで、その討伐が終わるまで私達ソラ様の婚約者の親族は皆聖女院へ避難することになりました。
魔境と呼ばれるそこは、連絡手段も存在しない未知の領域。
女神様や聖女様からご報告があるまでは、またいつ魔王達が襲ってくるか分かりません。
ソラ様御一行か女神様がお告げなさるまでは、この警戒体制を解除できないのです。
あの子がソラ様達と無事に帰ってくることだけが、私の望みです。
「失礼いたします。ブルーム様、テレシア様、ホークス様。聖女様方が面会をお望みです」
執事の方々が慌てたようすでこちらへと参りました。
「え……?」
「す、すぐに支度を……!」
「い、いえ……その……拝謁ではなく……」
拝謁ではない……ということは、まさか――
「失礼いたします。聖女サクラ様と聖女真桜様が親臨あそばされました」
「失礼するわ。ごめんなさいね、いきなり訪ねて」




