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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第911話 終縁

『クハハ、まだ……まだだ!我輩が何のためにセーラを転生させたと思っている!!我輩の分身、総てはこのためだったのだ!!!』


 器を失った邪神は、新たな宿主を姉に変えた。

 でもエリス様の身体はもう邪神のものではないから、姉の神体はもう欠けたら二度と帰ってこない。


 神体だから防御力も魔法防御も僕たちよりあるけれど、魔力さえ切らしてしまえば、もう生き返るなんてことはできない。

 たとえ魂が姉だろうと僕達の方が戦力が多くて有利な以上、簡単に死なないように立ち回ってくるはず。


『いいえ、あなたはおしまいよ。メフィスト』

『……何!?』

『ぷっ、あははははっ!』


 人目を憚らず、まるで魔女のように嗤う姉。

 ひとしきり嗤った後、姉は冷たい(まなこ)をしていた。


『いつから私があなたの味方だなんて思っていたのかしら?私はあなたが力を失ったタイミングを狙っていたの。あなたが私を取り込むんじゃないわ。私が()()を取り込むのよ、メフィスト』

『ぐあああっ、おのれっ貴様!』


 行き場の無くなった黒色の霧(邪神の魔力)が姉の口から身体に入っていく。

 その姿がやがて真っ黒になったとき、もう姉の興味は邪神にはなくなっていた。


『『私と手を組んだ時から、お前に邪神の座なんて無かったのよ』』


 邪神からすると梯子を外されたように感じるかもしれないけれど、元々姉なんて自分のことしか考えていない人なんだから味方につけたなんて思っていること自体が間違いだ。




 名前:奏星空

 種族:邪神 性別:女

 ジョブ:邪神 LV.500/500

 体力:-/- 魔力:690/5000

 攻撃:5000

 防御:5000

 知力:5000

 魔防:5000

 器用:5000

 俊敏:5000


 スキル

  闇属性魔法[神]・無属性魔法[神]・魔力視


 状態

  眷属憑依 (メフィスト)




 でも、そんな仲間割れは僕には関係がない。


「『『――現世の万物を覆滅せし神よ、今我承りし祝福となりてすべての悪を滅ぼしたまえ――』』」


 僕はただ、合体して邪神に成り果てた姉を倒すだけ。


「『『――ホーリー・デリート――』』」


 光の柱が僕たちを、そして姉を包み込む。

 やっと、ここまで来た。


『『よくやったわね、ソラ。あなたの勝ちよ』』

「『『……今更同情を誘っているのなら、前世ですべきだったな。貴様は私の家族の(かたき)、殺す覚悟などとうに出来ているッ……!!』』」

『『違うわ、そんなどうでもいいことじゃない。ただ足手まといのくせに、この私達だけの空間に一緒にいる勘違いな女、()()()()()()()』』


 姉の手が鋭利なドリルのようになり、そこから自分の両足をまるでゴムひものように変形させ、ギュルンとねじってから前進するための力に変えた。

 そのまま屈んでバネのように跳ねると、涼花さんの方に向かって真っ直ぐと突き刺す。


「ぐっ……」

「涼花様っ!!」

 

 技術だけでは到底敵わない、ステータスでの暴力。

 鳳凰の七魔覚醒で三倍されているとはいえ、999の三倍は約3000。

 対して今の邪神を眷属憑依させた姉は5000。

 防御や魔法防御が攻撃や知力よりも500以上かけ離れている場合、その攻撃は蚊に刺された程度のものになってしまう。

 ここにいる僕しか、彼女にまともにダメージを与えられないことを察して、「足手まとい」だと評したのかもしれない。


『「ダブル・エクストラヒール!」』


 でも、それは時間稼ぎにしかならない。

 今の僕には凛ちゃんとエリス様がいる。

 特に凛ちゃんは回復魔法を両手指の10連続で放てるくらいには成長した。

 心臓をえぐられなければ、僕たちは逃げているだけでいい。




 ……はずだった。




『『――嘆きの亡霊よ、今我が終焉の神の命に応え、魂の繋がりを引き裂け――』』

「『『っ――!?』』」


 それは、僕がゲームで何度も聞いたことのあるフレーズ。


「涼花さ――」


 ダメだ、涼花さんは今回復中でとても魔法陣を消すなんてできない。

 初めからそれを防ぐために、涼花さんを狙っていたんだ。




「『『やめ……』』」




 僕たちには止める手段など、もうどこにもなかった。




『『――終焉の緣(テザーズ・エンド)――』』




 地獄の門から死の象徴である棺桶が出てきて開くと、そこから漆黒の(くさび)が飛んできて、そして僕に突き刺さる。




 この魔法は、僕自身に作用する魔法ではない。




 術者が用意した魂と引き換えに、対象の、()()()()()()()()()()()()()()




『――さようなら、メフィスト。そしてさようなら、()()()()()――』




 それはどさりと、何の予兆もなく倒れていた。




 僕の大好きな茶色のお団子が、最後に揺れた瞬間だった。




「エルー君ッ……!!」

「エルーちゃん!!」




 シルヴィの鑑定結果が出ないことが、死亡判定の証左になっていた。




「『『いやだ……そんな……』』」




 死に際の一言なんて、お別れ前の一言なんて、そんなもの常にある訳じゃない。




 僕はまた大切なものを、この姉から守れなかった――――

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