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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第908話 耳栓

 ――それは、邪神との戦争の準備期間中のこと。


「姉対策の魔道具?」

「はい。邪神は魔力があり続ける限り、何度も不死王リッチを召喚し続けます。そしてそれは五国のどこかに転移するかもしれませんし、あえて転移させないで魔境の戦力強化に回す可能性もあると思います」


 僕は聖女院クラフト研究室にてサツキさんとエレノアさん、アンネ室長に頼み事をしていた。


「私も私で精神攻撃に飲まれないように努力はするつもりですが、これでも精神攻撃には弱いことは自覚していますから……」

「確かに、いつもエルー君と涼花君に屈してるものな……」

「それを言うなら、エレノアさんだっていつも私に屈してるでしょう?」

「なっ……!?それはキミがボクを寝かすためにわざと疲れさせているからだろうっ!!」


 というか、それは今関係ないでしょ……。


「ソラちゃん、羽目外し過ぎじゃない……?いや、どっちかと言うと、ハメてるし外してないけど……」

「二人とも、私にセクハラしてる自覚あります?」

「当たり前じゃないか」

「何よ、でも男の子って、こういうの好きなんでしょ?」


 相手が法を無視した聖女という存在と婚約者だから、何も言えないんだけどね。


「そりゃあサツキさんは魅力的かもしれませんが、だからこそ安売りしちゃ駄目でしょう?」

「う、うるさいわね!こちとらアラサーの残り物よ……今さらそんなお世辞、通用しないわよ、ぶつぶつぶつぶつ……」


 拗ねちゃった……。

 正直、サツキさんが前世でも残り物だったなんて事が一番信じられないんだけどな。




「――そもそも、ソラ様はどうなると姉君と認識なさるんだ?」

「どうなると、というのは?」

「ほら、人は五感から情報を得てはいるが、その割合は人によって様々だろう?」

「ソラ君の場合、耳に依るところが大きいんじゃないか?」

「確かにソラちゃん、耳敏感で有名だものね」

「夜の話しないでくださいよ」

「私、今はしてないわよ?」


 しまった、先回りしようとして失敗した。


「エッチ」

「う……」

「ヘンタイ」

「うぅ、そこまでいじめなくていいじゃないですか……」


 三人でぷるぷる震えてないで、話を進めてほしい。


「話は逸れたが、キミの記憶力が良すぎるのは、聴こえた物事を忘れることが出来ないからじゃないかい?」

「うーん……でも確かにそう言われると、私は少し耳の情報に頼りすぎているかもしれません」


 耳が敏感なのは発達しているが故の弊害だと言われるとその通りかもしれない。


「じゃあ、試してみたらいい。姉そっくりな絵を見ているだけのときと、声を真似しているときで……」

「ああ、それは試すまでもないかも……」


 僕は姉の声真似をした時だけ、気分がぐるぐるとしてくるから。

 試しに録音魔道具に姉の真似をしたボクの声を聞いていると、馬鹿みたいにしんどくなってきた。

 声真似を聞かれている気恥ずかしさは多少あるかもしれないが、それを差し引いても気分の下がり具合が酷い。


「うっ……」

「だ、大丈夫?」

「もうやめましょう。次からはエルーちゃんがいる時にやりましょう」


 「あなたも病人であることを忘れないで」と、僕のことを気遣ってくれる。


「まあ、これで声の情報の方が強いことが分かったね」

「つまりソラちゃんは、声さえ聴こえていなければ、姉って認識することはないわけね」

「なら、耳栓でもするか?」

「耳栓って案外聴こえるんですよ」

「そうよね」

「二人とも、やったことがあるのか?」


 驚かれたけど、そういえばこの世界にはあまり耳栓なんて用途がないのか。


「ああ、私たちは音楽をヘッドホンとかイヤホンで聞く文化があるから」

「何だそれは、教えてくれ!」


 僕達は前世のイヤホンの説明を二人の研究者に軽くする。

 この人たちは仕組みさえ伝えればそれっぽい魔道具を作ってくれるから、本当にすごい人たちだ。


「ふむ、興味深いな……」

「ひとまず、イヤホンで音楽でもガンガン流しておけば、姉の声を聞かなくて済むようにはなるんじゃない?」

「でも、それじゃあ他の人の声も聴こえないし、連携が出来なくなるし、味方の声も聞き取れないのは戦闘では不便だよ」

「そうよ、イヤホンにするなら、いいのがあるじゃない!」

「「「……?」」」

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