第907話 人形
歩みを姉の方に進めていく。
止まらずに一歩一歩と、真っ直ぐに。
「こちらに来てはダメです!」
「ソラちゃん!!」
「天先輩っ!!!」
「うるさい……うぅ……うるさい……」
「リン様、危ないっ!!」
「きゃっっ!?」
僕が無詠唱魔法で威嚇射撃をすると、みんなが一歩後退する。
駄目だ、僕に近付いちゃ、ダメだっ……!!
今から僕には、やることができたから。
『駄目ね。洗脳が半端だわ。 ソ ラ 、 早 く 来 な さ い 』
「う゛っ……あたまが……」
今の僕は、ただの人形。
ただ命令されたとおりに歩みをすすめるだけの、ただの人形。
それはぜん世から約そくされた、ぼくの宿めい。
ぼくは、はじめからにんぎょうだった。
そ う 、 な に も か ん が え な く て い い 。
い ま の ぼ く は 、 た だ の あ ね の て ご ま 。
『 い い こ ね 』
そうして耳が何も聞こえなくなった時、僕は邪神の前を通りすぎた。
そのまま邪神と交差した僕は、邪神の胸を魔力を帯びた手で突き刺した。
『『 …………何…………を…………した…………!? 』』
姉にはもう、数えきれないほど負けてきた。
でも、一度でいい。
「――眷属憑依――」
何百と、何千と、何万と負けてきても、一度だけでいい。
「『『――歯ぁ、食いしばれッ――』』」
最後に一度だけ、土壇場の大一番で勝てば、僕たちは生き残れる。
「『『――はやくッッ!エリス様からッッッ、出ていけッッッッ!このロクデナシ偽神ッッッッッ!!――』』」
それが僕の生き方だ。
『っ……!?』
ざまあみろ、僕の姉。
どれだけ頭を垂れても、どんなにカースト底辺だろうと、僕はもう操られているだけの人形なんかじゃあない。
結局は、最後に立っていた方の勝ちなんだっ!!!!
『『 お…………おのれえええ大聖女ソラアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!―――― 』』
シルヴィを経由して乗っ取られていたエリス様に光属性の素を注入されたことで、邪神はほとんど魔力を吸いとられてエリス様の身体から出ていかざるを得なくなった。
邪神にとって、それはアビスさんに無理やり埋め込んで引き剥がさなければ、エリス様の身体は操ることすらできない代物だったからだ。
「『『エリス様!!』』」
「大丈夫よ、戻ったわ……」
やっと、本人の声が聴こえた……。
天庭で何度も聞いていた、心の声で何度も聞いていた、あの声の主だ。
「『『おかえり、エリス様』』」
「ふふ、ただいまっ……!」
ともあれこれで、エリス様は取り戻した。
形勢逆転だ。
『へぇ、よく私の洗脳を抜けたわね』
「『『え、なんだって……?』』」
『なるほどね。最初から私の声なんて、聴こえていなかったのね……』
そう、最初から僕は姉の声だけ、聞き取れていなかったのだ。




