第905話 掌握
「ソラ様、そんな……!?」
いつの間にか憑依を切って、僕は姉達のいる方へ徐々に歩みを進めていた。
『もう時効だから、イイコトを教えてあげる。まずはあなたの祖父の桔平。楓もそうだったけれど、桔平は特に私を認めなかったのよね。前の彼氏との子がいたことを隠して結婚したママの子だもの、当然よね。でもある日、ここにいる邪神の気分で雷を落として殺された……』
僕の父方の祖父である桔平お祖父ちゃんとは物心つく前に亡くなったものだから、あまり思い出という思い出もない。
二人とも自分にも他人にも厳しい人だったから、そういった曲がったことは嫌いだった。
でも生まれた本人は悪くないからと、責めていたのは母親と逃げた彼氏だけだった。
強く言えなかったがために、姉が悪いことをしても怒られるのは育ての親であるお父さんとお母さんだった。
『その時、楓は一気に弱くなったのよ。そこで私は知ったの。どんなに高圧的な人間でも、弱点なんて探せばいくらでもある。心の拠り所や安寧の保証。それを握るだけで、人なんていくらでも揺らぐ』
姉は周りの人間という人間を片っ端から掌握してきた。
でもそれは、僕の知らない影で否定されてきたことの反動だったのかもしれない。
『そうやって私も家庭を掌握していったものの、嶺の一族は一向に私の掌握を拒絶していったのよ。楓も、梓も、肇も、そしてソラ、あなたもよ。毎回私に逆らおうとしてきた。私はなかなか私のものにならないあなた達が興味深くて、この愚かな愚かなソラを掌握することを考えた。手始めに、憔悴しきっていた楓を私は自分の手を汚さずに殺そうとした』
「っ……!?」
『だけれど、逃げられてしまったわ。行方不明になったのよ。そう、この世界に逃げ込んだ』
姉は他人の弱みを握って、その人に手を汚させる方法を編み出したのだ。
これがカースト最上位の生き方。
『そして従姉の梓もそう。ここの女神によって逃がされたのよ。死体が見つからないというのに、どうして死んだなんて断定するのか、あの世界にはがっかりしたわ』
「それに逃げるだけで解決すると思うなんて、女神も本当に愚かだわ……」と、低い声をこの地下室に響かせる。
『そして私はターゲットを変えた。まずはママに贅沢をさせて、それをやめられなくさせた。肇の心の拠り所である金はママと私で散財し、追い討ちとしてソラに稼がせることで、あの男の尊厳はすべてなくなったわ。ソラに対して手を上げたのは、傑作だったわね』
母にとって、姉には複雑な家庭の姉にした負い目があった。
母が変わったのも、その負い目を常に突かれて仕方がなかったのかもしれない。
すべて、姉の仕業だった。
『でも、残念なことに、私の愚かなソラに懸想する女が顕れた……』
ふと、凛ちゃんを一瞥した。
『そう。演劇部のヘルプで少し助けられたくらいで勘違いした、愚かな女。その噂はすぐに私のもとに届いたわ』
「ま、まさか……」
『柊凛。だから私は、お前のすべてを否定したのよ』




