第893話 迷路
「ここが最深部か……」
それまで洞穴チックな造りだったのに対し、ここからは何故か妙に人工的な造りになっている。
まるでいかにもボスがいますよと言っているかのような最深部に、僕たちも気が引き締まる。
「ここは……迷路か?」
「げっ……ハズレ」
「うわぁ……ハズレじゃん……」
アビスさんと凛ちゃんがそれぞれ露骨に嫌そうな顔をする。
「二人とも、何がハズレなんだ?」
「邪神のいる部屋に行くにはこの『試練の間』と呼ばれる空間を突破する必要があるんですが……」
「この『試練の間』は10個の試練の中からランダムに一つステージが選ばれ、突破できれば邪神の居る部屋に進むことが出来るんだ」
「えっ、10種類もあったの……?」
そう、ボスラッシュや迷路、クイズや謎解きなど『試練の間』には10種類の形式のステージからランダムに1ステージが選ばれる。
それは日付が変わるかこの『試練の間』を管理している裏ボス、邪神を倒すかしないかぎりは変わらない。
「えっ……?アビスさんって昨日までこの辺で暮らしてたんですよね?」
「僕が産まれたのは最近だからね。お姉ちゃんよりは前だけど、お父さんほど生きてはいないよ」
「それは何年くらいですか?」
「ああ、そういえばニンゲンは赤ちゃんって概念があるんだっけ?分からない。気がついたらここにいて、ずっとこの姿でお父さんに娘って呼ばれてただけだから」
ああ、子供って概念がないのか。
そういえば子供の姿の魔王や四天王なんて見たことないし、そりゃそうか。
でもアビスさん、それワンチャン邪神の実の娘じゃない説ない……?
「ここから出たことは?」
「光属性を埋められてから意識飛んでたから覚えてないけど、多分ないと思う。この世界の太陽は光魔法の一種だから、僕たちは日中に外に出られないんだ。日陰になるところにいないと徐々に魔力が減っていくの」
魔族にとって、魔力は体力そのもの。
だから日射するだけで毒のスリップダメージが入っているようなものだ。
なんかそれだけ聞くと、前世の創作におけるヴァンパイアのような存在だな……。
こっちの世界の吸血鬼族は二人しかいないけど、どっちも日の光には弱いだけでダメージを受ける程ではないし、なんだか現実とはちぐはぐなものなのかもしれない。
でもそういえば、四天王は基本的に地下や室内に生息しようとするし、魔王が襲来した時はわざわざ魔王が天候を曇りに変えてくる丁寧ぶりだ。
当時はゲームの演出のためにやっているものだと思ってたけど、きちんと理由があったんだなぁと感心した。
いやまぁ、邪神から魔力をもらって動いている兵隊が、魔力をただ演出のためだけに無駄にするはずがないといえば、それはそうなんだけど……。
「前回の戦争では、魔族たちは地面から穴を掘って地下から地面に埋めたり、魔法で屋根を造ってから攻めていた」
普通の魔物は日の光を浴びても大丈夫なのは、彼らが邪神から造られた魔物か否かなのかもしれない。
「話を戻しますけど、10種類ってしらないのに、どうやってここを出入りしてたんですか?」
「いや、そりゃあ自信があるステージが出てくるまで日付を待つしかないでしょ。お父さんにはそれでいっつもどやされて殴られてたよ。お姉ちゃんはそれを知ってるからか外に出ないし……」
「迷路なんてまともにやれば10時間かかる無理ゲーですよ?流石に今日はここで休みましょう?」
「いや、何言ってるんですか!?『迷路の試練』なんて、今回一番都合がいいのにっ!」
「「……はぁ?」」
二人からひどく冷たい目で見られてしまった。




