第891話 烏兎
「ナニしてたんですか……」
「ごめんなさい……」
凛ちゃんに怒られてしまった。
聖域で声は抑えていたが、ベッドの揺れを抑えるのを忘れていた。
「そうじゃなくて、巻き込んでくれればよかったのに……」
「も、申し訳ございません、リン様……」
寝てる間に同意なくするシチュエーションを何故皆望んでいるのか、僕は不思議でならないよ……。
涼花さん曰くあまりにも僕が受け身だから、皆僕が積極的になるのを日々夢想しているらしい。
たまに僕を除け者にして開かれている後宮お茶会で最近のトレンドなのだそうだ。
それを何故かお茶会に参加している義娘のシェリーがワルノリしたのか小説や漫画のネタにしているらしい。
あの小説、シェリーの名誉のために僕公認って言い張っちゃったし、ところどころ事実を織り混ぜているからか、あそこに書かれている内容が僕の日頃していることや願望だと思っている人が散見される。
そのせいで学園で三年生になってから、僕には直接言わないけれど、「大聖女が裏ではあんなことやこんなことしてる」なんて噂がどんどん広まるのだから、悪夢でしかない。
表紙の次のページにきちんとフィクションだって、書いてあるのに、誰も見てないのかな……?
いや、説明書読まないで入るタイプなんだろう、きっと。
でもたまにシェリーが過激に書くと、それを真に受けた婚約者が小説と同じことしてきたりするから、まぁ恩恵がないわけではない。
「むぅ」
両手の指を交差しながら控えめに拗ねている凛ちゃんが愛らしい。
比較的何事にも物怖じするタイプだから、こうやって感情を露にする姿は見ていて飽きない。
アビスさんの時もあんなに感情的になっていたことに驚いて魔力暴走しかけてた僕が正気に戻るくらいだからね。
「ほら、拗ねないで。一緒に行こっ!」
「あっ、天先輩っ、もう……」
僕は凛ちゃんの手を引いて誤魔化した。
「そういえばエルーちゃん、その首飾りはなぁに?」
透き通った雫のような形をした、透明なダイヤモンドの首飾り。
エルーちゃんには似合っているとは思うけど、今まで着けてなどいなかったのに急にどうしたんだろう?
ゲームには存在しなかったアイテムだから、誰かに作って貰ったんだろうか?
「ええと、その……た、大切な贈り物です」
「大切な贈り物だったら、今は着けない方がいいと思うよ?」
「いえ、そういうものではなく……」
「まさか、男に……!?」
「ソラ、アナタ嫉妬は見苦しいわよ?」
「ち、違いますっ!以前エリス様にいただいたのです。用途は分かりませんが、着けておきなさいと仰られました」
<エリス様?>
<…………>
寝てるのかな?
「うん?そっか。まるでお日さまとお月さまを同時に見ているみたい。とっても綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます……」
真意は分からないけど、これだけ似合っているのだし、何かしらのバフでも付くのかもしれない。




