第890話 鎖骨
「んぅ……」
「おはようございます、ソラ様」
大きなベッドで四人で寝ていたけど、どうやら目の前にエルーちゃんが居て、その奥に凛ちゃんがいるらしい。
「えるーちゃん、おあよぉ……」
エルーちゃんが僕より早く起きていないのは珍しいと思っていたけど、エルーちゃんは僕が寝ぼけて抱き締めていたらしく、僕の手はがっちりとその腰を回して引き寄せていた。
エルーちゃんは僕がそうしていたからか出来上がってしまっており、さりげなく鎖骨と鎖骨の間の匂いを嗅いだり、なんらかの感情が爆発したのかおでこにキスしたりしてきた。
その上僕の後ろでは涼花さんがいつものように抱き締めており、またあの胸枕で挟まれていた。
「おはよう、ソラちゃん」
そして寝起きの挨拶と言わんばかりに、僕のうなじに口づけをしていた。
こんな場所で何考えてるんだって話だけど、朝だからか生理現象には逆らえないでいた。
「その……あまり、眠れませんでしたか?」
「ふぁぁっ……んー」
一昨日はそれなりに寝れたけれど、今日はあまり寝れなかった。
「おねむそうですね。環境のせいでしょうか?」
「分からないけど、多分昨日アビスさんからあの話を聞いちゃったから、かな……」
今一番僕が心の中でざわついている話題は、姉だ。
おそらく邪神から器を与えられて転生した。
シルヴィのように歳もとらず、再生する神体を手に入れて。
「寝不足は判断が鈍くなる。今日は本番だ、無理矢理にでも眠った方がいい」
「ソラ様、楽しいことを考えましょう?これが終わったら、何がしたいですか?」
「え、ええと……ねぼすけさんも含めて、この四人で一緒にお出かけしよっか。うーん、そうだな……四人で温泉巡りでも行ってみる?」
ラーメンや着物は巡ったけど、そういえば温泉巡りはまだしていないなと思い出した。
凛ちゃんとしても故郷の懐かしいものに触れさせてあげたいしね。
「ふふっ、ソラ様のえっち……」
「そんなに私たちの裸を見たかったのかい?」
「確かに温泉で見れるものはまた違う光景かもしれないけど、違うよ。単に綺麗な景色を眺めながら入る温泉をみんなに共有したいだけだよ。それに旅館なら、和食も出るだろうしね」
「本当に、それだけですか……?」
それは、期待の目。
くんくんと嗅ぐ鼻息が徐々に荒く、そして甘くなっていく。
「……まあその、浴衣姿は堪能したい……とは思ってるけど」
「ツンデレだ」
「ツンデレですね」
そんなの男なんだから仕方ないでしょ。
「もぉ……二人して。それに、今えっちなこと考えてるのはどっちなんだか……」
僕が指摘すると、顔を真っ赤にしながら鎖骨に吸い付くような口づけをした。
バレバレなのに、気づいていないとでも思ったんだろうか?
「ソラ様、ご提案があるのですが」
「……なあに?」
「眠くなられないのでしたら、疲れて眠くしてみるのはいかがでしょうか?」
「…………まぁ、イイデスケド」
「ツンデレだ」
「ツンデレですね」
僕は恥ずかしさを紛らわすように、返事とばかりに鎖骨に口づけを落とした。




