第888話 虚勢
「あっちは大丈夫かな……」
「それ、今心配することですか……?」
まるでプラネタリウムの星を見ているかのように光る魔物に取り囲まれていた。
綺麗だと言いたいところだけれど、その輝く星は全て僕達への悪意になっている。
「虹色カメレオンは自分の得意属性の魔力や魔法を吸収してしまう魔物です。目の色がそのカメレオンの得意属性ですから、得意属性はそこから判別ができると思います」
「つまり、スフィンクスの坊やの全属性バージョンということね」
「全属性とは言うが、それぞれ単体属性しか持っていないのだろう?」
「はい。光属性と無属性だけはないので、それだけが救いではありますが」
「とはいえ、吸収するのは非常に厄介ね……。攻撃する相手を間違えるだけで相手を有利にしてしまうのだから」
「舌を伸ばして得意属性を回収してくるので、近くへ攻撃するだけで吸収されると思ってください」
「だから群れるのか。厄介だな……」
「そうでもないですよ。魔法を使わなければいいだけですからっ!」
横の壁をちょうど這っていたカメレオンが舌を伸ばして攻撃してくるのを垂直に避ける。
このまま魔甲をつけて潰すのも手だが、拳で壁を巻き込んで破壊しては、僕たちが埋められてしまうからできない。
邪神が埋められただけで土に還ってくれるのなら一考の余地はあるけど、そんなことないからね。
僕は久しぶりに霊刀「鬼丸」を取り出して使うことにした。
それも、二本だ。
「――霊気解放――」
「――無気解放――」
ちょうど僕の解放にあわせて涼花さんも解放していた。
考えることが同じでくすりと笑ってしまう。
『――霊刀・伍の舞、神無月――』
『――無刀・夢幻の舞、破魔――』
二人とも突き攻撃を選択する。
一点集中で刺し殺せば、壁を崩す心配もないからだ。
もう僕より強い相手に対して意見するのも烏滸がましいところだけど、涼花さんも周りをよく見ているなと感心する。
「氷の華」
「避雷針」
エルーちゃんや神獣達は虹色カメレオンの目の色から弱点属性を探りだし、魔法の発生箇所をカメレオンのいる場所にゼロ距離で放つことで他のカメレオンからの妨害をさせることなく魔法で倒すことにしたようだ。
これがエルーちゃんの指示だと言うのだから、彼女は本当に頭がいい。
「というか、虹色カメレオンって何万年前かに邪神と戦争していたときには戦っていないの?」
「いんや、ワイらは前線で戦っとったし、拮抗しとったかんな。邪神の棲み家にまで行くんは無理やったんよ」
「……あまり言わないようにしていましたが、神話戦争時代の女神陣営、ちょっと弱くないですか?」
「む……民を守るためだ、仕方がないだろう」
負け惜しみって言うんだよ、そういうの。




