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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第886話 酷似

「私は聖女の奏天」

「同じく聖女の柊凛です」

「ソラ様のメイドのエルーシアと申します」

「橘涼花だ」

「凛ちゃんが殺されそうになったとはいえ、あなたのことを殺そうとしてしまって、ごめんなさい……」

「いいよ。痛かったけど、僕も助けを求めただけだもん。むしろこちらこそ、どうしようもなかった状態から僕を助けてくれてありがとね」


 なんかこの子、何か違和感があるんだよね。

 でも患グラスで確認しても、魔水晶で確認してもその違和感の正体にはたどり着けなかった。


 お互いに自己紹介を終え、肝心なことを聞くことにした。


「まずは敵対の意思を確認したいんだけど、私たちと敵対する気はある?」

「いや、ないよ。そもそも、僕じゃ勝てないでしょ?お父さんは私が勝てないのが分かりきってて、僕を殺すために聖女と戦わせたんだと……思う」

「そもそもどうしてアビスさんは操られてたの?」

「僕に熱いやつを埋め込んだお父さんが、聖女を殺せばこの熱いやつを取り除いてくれるって約束してたんだよ」


 熱いやつというのは、光属性のことだろう。

 弱点属性を埋め込まれると焼けるように熱いが、光属性が自動発動することで死ぬことさえ許されない。

 いわば生き地獄だ。


「きっと聖女を全員殺せたとしても、その後邪神がその約束を守る道理はないだろうな。あれはそんなタマではない」

「残念なことだが、そうだろうね」


 真桜ちゃんもそうだったけど、自分の親族に殺されるってどれだけ恐ろしいことなんだろうか。

 僕は姉に殺されかけたことは何度もあれど、実際に殺されたことはなかった。

 たまに姉だけは法律に縛られない存在なのだと思っていたけど、その一線だけは越えなかった。


「えっと……私たちはこれから邪神を倒しに行くんだけど、どうする?一緒に来る?」

「……?」

「あなたは邪神の娘。だからこそあなたに洗脳してくるかもしれないし」

「大丈夫。お父さんに洗脳されたことはないし、あの熱いのがなければ従う必要もないよ」


 基本ステータスはエルーちゃん達と同等、攻撃と俊敏に至ってはこの中だと僕に次いで高い。

 正直言うと戦力は多いに越したことはないため、この戦力増加は助かる。

 アビスさんが操られたり寝返ったりする心配はまだ消えないが、それを差し置いても戦力が増える方が優先だ。


「あの、少しよろしいでしょうか……?」

「どうしたの、エルーちゃん?」


 言うか言わずか迷っていたエルーちゃんが、重い腰を上げるように口にした。


「アビス様のことなのですが、その……」

「いいよ、遠慮なく言って?」

「あまりにもその、お声が……ソラ様に酷似しておられませんか?」

「ああ、そういえば確かにそうだね」


 そうか、違和感の正体はこれか。

 声が、僕にそっくりなんだ。

 でも自分の声を自分で聞くのと、他人の声を聞くのとでは聞こえ方が違うから、違和感くらいでしかなかった。

 一応動画編集で自分の声は他人視点で聞いたことはあったけれど、それも三年以上も前の話だ。


「似ているというか、僕は君を参考に作られたんだよ。だから、こういうこともできるよ」


 アビスさんが闇に覆われ黒ずくめになった次の瞬間、僕そのものに変化した。


「ソラ様になってしまわれました……!」

「凄いな……」

「どうして邪神が、私を参考にあなたを作ったの?」

「それは、()()()()()がお父さんに頼んだからだよ」


 「僕」と「お姉ちゃん」という言葉に、どくんと心臓の鼓動が耳に残るようになった。


「まって、お姉ちゃんって誰?名前はっ!?」

「え?そりゃぁ……セーラだよ」

「はぁっ、はぁっ……はぁっ……」


 心臓の鼓動は、どんどん大きくなっていた。

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