第883話 移植
「どういうことや?」
「この娘を強くするためにそうしたように聞こえるが、実の娘をキメラにしてまで我々に勝ちたかったということか?」
「『『いや、多少強くなってはいるが、精神と身体面では逆効果らしい』』」
殺すのはやめるように言われ、心臓の再生を待つ間に話を進める。
「そもそも、光の神体とはどういったものなのでしょうか?」
「『『……数万年前の神々の大戦でエリス様の神体を奪った邪神だが、何故邪神は戦争を終結させてまで現人女神であるエリス様の神体を奪うことを優先したか分かるか?』』」
「普通に考えりゃ……おっ母の身体が何かしらメリットがあるからやないんか?」
玄武の言う通り、メリットがないのに奪うほど邪神は考えなしな存在ではない。
「『『エリス様の神体には本来、全属性の最上級魔法を操る権能が宿っている。その中で唯一、邪神には毒になるのが光属性の権能だ。その存在が身体の内にあるだけで邪神にとって、いや、邪神に限らず魔族や魔物にとって精神と魔力を蝕むものになるはずだ』』」
魔物や魔族、邪神にとって、魔力は僕たちにおける体力と同じ。
心臓を貫いても死ぬものは多いが、逆にどんなに不死身の存在でも、魔力さえなくなれば自然消滅してしまう。
「つまり、それを差し置いても邪神側にメリットの方が多いということか」
「まぁ、普通に考えれば一属性が身体を蝕んでも他の属性全てを手に入れて強化できるなら、そちらを選ぶだろう。奪うだけで相手の戦力も削れることになるしな……」
戦力を削る
「『『では、全属性の中で神体を乗っ取ると身体を蝕む光属性だけを他人に移植できるとしたら?』』」
「「「ッ!?」」」
「そんなことができれば、精神と魔力を蝕む弱点がなくなって、最強の存在になってしまうではないですか……」
そう、本来闇属性しか使えないはずの邪神が、光属性以外の全ての属性が使えるようになる。
僕でさえ到達していない、本物の化け物の誕生だ。
「『『そうだ。邪神は自分の娘を生成し、そして何万年とじっくりと時間をかけ、徐々に徐々に移植していったのだろう』』」
「……下に居る化け物の認識を改める必要があるな」
神獣達も戦慄していた。
「だがこの娘も魔族だからこれに移植したとて、娘にとっても毒だろう?実の娘のはずなのに、どうして移植しようと試みたんだ?」
「『『所謂身代わりだろう。邪神はこの娘がどうなろうとどうでもいいらしいな……』』」
「そ、そんな……!」
「あの子は、邪神に『聖女を全員殺せば、光属性を取り除いてやる』と言われていたようです」
「そもそも聖女を殺せれば用済みだからな。邪神が本当にその約束を守るとは思えん」
光属性の強制再生のせいで魔力が続く限り死ぬことは許されず、ただ聖女を殺す殺戮マシーンに仕立て上げたかったのだろう。
凛ちゃんが見たのは、この娘の魂の叫びだったのかもしれない。




