第882話 息女
「『『凛。同情でただ殺すなと言っているのなら、聞かんぞ』』」
抱きつかれてそんなことを言われた時、僕は散と婚約者を疑った。
先ほど心臓を貫かれたときに状態異常や魅了をかけられたのかと思ったからだ。
しかしシルヴィのスキルで鑑定を行ったところ正常だったため、その心配は杞憂だった。
「違うんです!貫かれたとき、彼女の過去の記憶みたいなものが流れてきたんです!」
「記憶……?」
「はい。その記憶が確かなら、彼女は邪神の命令に騙されています!」
「『『……』』」
「天先輩、私を信じてください……!」
疑いが消えたものの、このまま再生する心臓をそのままにしていては今度はまた僕や凛ちゃんが狙われるだけだ。
<旦那様、主をお呼びください>
<でも、まだ休んでるんじゃないの?>
<旦那様のお声なら起きますから>
<エリス様、起きれますか?>
<んぅ……あとちょっと……もっと奥突いてソラ君……>
どんな夢見てるんだよ……。
<起きてくださいよ、この変態っ!!>
<むにゅぅ、へんたいじゃ……ってあれ?ソラ君?どうしたの?>
<今僕が心臓を掴んでるこの魔族のこと何か分かりますか?>
<なになに……んーっ!……って、そ、そいつは……!?>
欠伸している場合じゃないんだけどな。
いや、身を削ってまで助けてくれているから強くはいえないけど、緊張感がないなぁ。
<誰なんですか?>
<神体が使われているから、おそらく邪神の娘よ>
「『『じゃ、邪神の娘だと……!?』』」
「!?」
「それはまことですか、ソラ様!?」
色々おかしい存在だとは思っていたけれど、流石に想定していなかった。
<でも、邪神が産み出したのは四天王や魔王も同じなのでは?>
<でも、彼らに神体は使われていなかったわ>
<確かに……>
神体や神力などという概念はシルヴィと神獣、それから邪神に奪われているエリス様の御神体しか知らない。
でもなるほど、この驚異の再生能力がシルヴィと同じ神体と神力による再生だとすれば納得がいく。
<じゃあ……父親は誰なんですか?>
<いや、神が子供産み出すのに父親母親なんて概念は基本的にはないのよ、ソラ君……。それじゃあ私はどうやってシルヴィを産み出したと思ってるの?>
じゃあなんでエリス様は僕との交尾を夢に見るくらいまで望んでいるの……?
<それで、この魔族……放っておくと再生するんですけど、どうすればいいですか?>
<むっ?妙ね……。そんな特徴、闇魔法には……>
<さっき光の魔法陣を描いてましたよ>
<ま、まさか!?>
<エリス様?>
<――――>
「『『は……!?』』」
「ソラ様?」
エルーちゃんが心配そうに僕を見つめていた。
「『『こいつは実の親である邪神に光の魔力発生源である"光の神体"を無理やり埋め込まれた、いわばキメラだ』』」




